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    痛み・麻酔読了 約14分

    腰のタトゥー、痛みの感じ方と入れる前に知っておきたいこと

    腰のタトゥーは中くらいの痛みとされますが、骨に近い場所では強く感じやすい部位です。痛みの感じ方から準備、施術中の工夫、ケアまでをやさしく整理します。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師inklinic代表
    目次

    腰のタトゥーは、背中の広い面を活かせる人気の部位です。痛みは中くらいとされますが、場所によって感じ方が変わります。この記事では、痛みの感じ方から準備、ケアまでをやさしく整理します。

    腰のタトゥーはどんな痛み?

    腰はどのくらい痛い?

    腰は、皮膚の下に脂肪と筋膜が厚めにあります。筋膜とは、かんたんに言うと筋肉を包む膜のことです。そのため、肋骨のように骨がすぐ皮膚の下にある場所と比べると、針の振動が骨に響きにくい部位です。一般向けの痛みマップでも、腰は「中くらいの痛み」として紹介されることが多いです [2]。ただし感じ方には個人差があります。Witkośらが2020年に発表した研究では、痛みを0〜10の数字で答える尺度を使って調べました [1]。

    その結果、性別や部位、施術時間によって感じ方が変わることが示されています [1]。施術が長くなるほど皮膚は敏感になり、後半で「最初より痛い」と感じる方もいます。最初の30分だけで判断せず、休憩のタイミングをアーティストと相談しておくと安心です。

    腰の中でも痛みが強く出やすい場所

    腰の痛みの感じ方 表皮 真皮 皮下脂肪 皮下に厚みがある 腰は皮下に厚みがあるが、背骨や神経に近い部分は感じやすい。感じ方は部位と個人差で変わる。

    同じ腰でも、骨に近い場所ほど痛みは強くなりやすいです。骨盤の上のふち(腸骨稜)の近くは皮下脂肪が薄く、骨に針の振動が響きやすい場所です [2]。背骨の出っ張りの上も、骨が皮膚のすぐ下にあるため痛みを感じやすい部分です [2]。痛みを和らげたい場合は、背骨の真上を避けて左右に振り分けるなど、配置の工夫で体感が変わります。「ここは骨に近いので痛みが強そう」とアーティストに伝えれば、アイデアを出してくれるはずです。


    将来の麻酔への配慮について

    腰のタトゥーで医療側から議論されてきたのが、将来の麻酔への影響です。出産や手術で使われる硬膜外麻酔などは、背骨の中央に針を刺して薬を入れます。Banerjeeらが2024年に発表したレビューでは、腰部タトゥーが麻酔に与える理論的な懸念が整理されています [3]。色素が針によって体の奥に運ばれる可能性が、以前から議論されてきました [3]。ただし、治ったタトゥーから中枢神経へ色素が運ばれるという確かな証拠は、今のところありません [3]。

    また、完全に治る前にタトゥーを通して針を刺すことを支持する根拠も、十分ではないとされています [3]。そのため、できれば色素が入っていない部分を狙って針を刺すという考え方が提案されています [4]。Ziporiらの2018年の報告でも、可能なら色素を避け、別の椎間や色素のない皮膚を使う方法が紹介されています [4]。DouglasとSwenertonが2002年に報告した3例では、全員が問題なく硬膜外麻酔を受けられました [5]。

    そのうち2例では、色素のない腰の椎間を選べたとされています [5]。こうした配慮は安全側に立った考え方として知られてきましたが、重大な合併症が確実に増えるという証拠は今のところ限られています [3, 4]。将来の妊娠・出産を考えている方は、背骨の中央あたりに色素のない余地を残しておくと、医療側の選択肢になる可能性があります [4, 5]。具体的な空白の幅は人によって違うので、気になる場合は麻酔科医にも相談してみてください。

    この話をアーティストに共有しておくと、構図に組み込んでくれることが多いです。

    施術前に整えておきたい準備

    アメリカ食品医薬品局(FDA)は、衛生管理のしっかりしたスタジオを選ぶことを基本に挙げています [6]。施術者が使い捨ての針と新しいインクを使うかを確認することも大切です [6]。安いという理由だけで店を決めず、消毒や器具の扱いを見せてもらえるかが目安になります [6]。お酒は出血やにじみを増やすことがあるので、前日から控えめにしておくと安心です。血をサラサラにする薬や持病の薬を飲んでいる方は、自己判断でやめないでください。

    中止すると体に大きな負担がかかることがあるため、必ず処方した医師に事前に相談しましょう。アスピリンなどの市販の痛み止めも出血に影響することがあるので、迷うときは医師や薬剤師に確認すると安心です。当日はしっかり食事と水分をとってから向かいましょう。腰の施術はうつ伏せの時間が長くなるので、締めつけの少ない服装を選ぶと負担が減ります [6]。

    施術中にリラックスするための工夫

    痛みを完全に消すのは難しくても、意識をそらせば体感は下がることがあります。Pimentelらが2021年に発表した小さな研究では、VRを使いながら施術を受けた人を観察しました [9]。VRとは、ゴーグルをつけて映像の世界に入る技術のことです。VRを始めた直後には痛みが下がる様子も見られましたが、結果は全体としてばらつきがありました [9]。参加者は16人と少なく、一般化するにはさらに研究が必要だとされています [9]。

    VRがなくても、ゆっくりした呼吸や好きな音楽で気持ちを落ち着けることはできます。痛みを感じた瞬間にこそ息を吐く意識を持つと、肩の力が抜けやすくなります。痛みは「どこに意識を向けるか」で変わる感覚です。なお、痛みをやわらげる目的で麻酔を使う場合があります。麻酔は医療行為なので、希望するときは医師の管理のもとで相談してください。


    アフターケアと腰ならではの注意点

    Liszewskiらが2023年に発表した研究では、アメリカのスタジオ700件のアフターケア指示を集めて比べました [8]。多くの店で共通していたのは、次のような点です [8]。

    • 清潔に保つこと
    • 直射日光や衣服の摩擦を避けること
    • かさぶたを無理に剥がさないこと

    保湿については、施術者の指示に従うのが基本です。無香料で刺激の少ない保湿剤を、薄く使うと良いとされています。ワセリンなど石油系の製品は色を退色させることがあるとアメリカ皮膚科学会(AAD)が説明しているので、使ってよいかは指示を確認してください [12]。塗りすぎると皮膚が蒸れて、かえって治りが悪くなるので注意しましょう。かさぶたを引っ張ると、インクごと剥がれて色抜けの原因になります [8]。

    腰はベルトやデニムの摩擦を受けやすい場所です。ゆったりしたボトムスに替え、睡眠は横向きや仰向けにすると患部がこすれにくくなります。入浴・サウナ・プール・海水浴は、表面がしっかり治るまで控えるのが一般的です。しばらくはシャワーで短時間に済ませ、清潔なタオルで水気を押さえてください。施術者から控える期間の指示があれば、それに従いましょう。

    トラブルが起きたときの受診の目安

    タトゥー後の赤みや腫れ、温かさは、数日のうちに落ち着くのが普通です [6]。しかし次のようなサインが出たら、早めに皮膚科の受診を考えてください。

    • 日を追って症状が強くなる
    • 熱を持つ、または発熱する
    • 膿が出る、赤みが広く広がる
    • 強い痛みや、よくならない発疹が続く

    FDAも、治っていないように見えるときや発疹・発熱があるときは、施術者と医療者に連絡するよう案内しています [6]。Serupらの2017年のレビューでは、感染症やアレルギー反応など、タトゥーで起こりうる合併症が整理されています [10]。Cohenが発表した論考でも、好中球性皮膚症やウイルス感染などの合併症が取り上げられています [11]。多くは早めに対応すれば落ち着きますが、自己判断で市販の薬を塗り続けると経過が分かりにくくなります。

    受診の際は、いつ施術を受けたか、どんなインクが使われたかを伝えると診断がスムーズです [10, 11]。不安を感じたら、我慢せず早めに専門医を頼ってください。

    まとめ

    腰は比較的耐えやすい部位ですが、骨に近い場所では痛みが強く出やすいです。デザインの配置や休憩の取り方を相談しておくと、負担を抑えられます。将来の麻酔を考える方は、背骨の中央あたりに色素のない余地を残す配慮も知っておくと安心です。施術前の薬は自己判断でやめず、医師に相談してください。施術後は清潔と保湿を保ち、気になる症状が続くときは早めに皮膚科へ相談してください。

    参考文献

    [1] Witkoś & Hartman-Petrycka (2020). Gender Differences in Subjective Pain Perception during and after Tattooing. Healthcare (PMC). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7767267/

    [2] Healthline. Tattoo Pain Chart: Pain Level by Location and Why. Healthline. https://www.healthline.com/health/body-modification/pain-tattoos-chart

    [3] Banerjee et al. (2024). The anesthetic implications of lumbar tattoos. Minerva Anestesiologica (PubMed). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39352465/

    [4] Zipori et al. (2018). The need for an epidural 'window of opportunity' in pregnant women with a lumbar tattoo. International Journal of Obstetric Anesthesia (ScienceDirect). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959289X17302303

    [5] Douglas & Swenerton (2002). Epidural anesthesia in three parturients with lumbar tattoos: A review of possible implications. Canadian Journal of Anesthesia. https://www.researchgate.net/publication/10994167

    [6] U.S. Food and Drug Administration (FDA). Think Before You Ink: Tattoo Safety. FDA. https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/think-you-ink-tattoo-safety

    [8] Liszewski et al. (2023). An Analysis of the Content and Recommendations of 700 American Tattoo Aftercare Instructions. Dermatology (Karger). https://karger.com/drm/article/239/6/988/861717/

    [9] Pimentel et al. (2021). The Effects of VR Use on Pain Experienced During a Tattoo Procedure: A Pilot Study. Frontiers in Virtual Reality. https://www.frontiersin.org/journals/virtual-reality/articles/10.3389/frvir.2021.643938/full

    [10] Serup et al. (2017). Medical Complications of Tattoos: A Comprehensive Review. PubMed. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26940693/

    [11] Cohen P. R. (2025). Tattoo complications: Neutrophilic dermatoses, viral and systemic fungal infections, and neoplasms. Journal of the American Academy of Dermatology (JAAD). https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.09.075

    [12] American Academy of Dermatology (AAD). Caring for tattooed skin. American Academy of Dermatology (AAD). https://www.aad.org/public/everyday-care/skin-care-basics/tattoos/caring-for-tattooed-skin

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

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