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タトゥーに興味はあるけれど、痛みが不安で踏み出せない。そんな方へ。実際には、inklyで麻酔を使って施術を受けた方988名のうち約6割が「全く」または「ほとんど」痛みを感じなかったと回答しています。麻酔を正しく使えば、痛みは大きくやわらげられます。この記事では、痛みをやわらげる「麻酔」の役割と限界、施術前に確認したいことをまとめます。

麻酔を使うと、痛みはどれくらい和らぐのか
「痛みが不安」という方に、まず知っておいてほしいデータがあります。inklyで麻酔を使って施術を受けた方988名へのアンケートでは、痛みの感じ方は次のような結果でした。
「全く」「ほとんど」痛みを感じなかった方を合わせると約62%。およそ3人に2人が、痛みをほとんど感じずに施術を終えています。「かなり痛みがあった」という方は約5%でした。感じ方には個人差がありますが、表面麻酔を適切に使えば、痛みは十分にやわらげられることがわかります。
ここから先では、その麻酔がどう働き、どんな点に注意すればより安心して受けられるのかを、医学的な根拠とあわせて整理します。
日本ではタトゥーと麻酔でルールが違います
まず知っておきたいのは、タトゥーそのものと麻酔とで、法律のあつかいが分かれている点です。最高裁判所は2020年9月、彫師がタトゥーを入れる行為は医師法でいう「医業」、つまり医師でなければできない仕事にはあたらないと判断しました[1]。報道でも大きく取り上げられた決定です[2]。ただし、これは「タトゥーを入れる行為」についての判断で、麻酔薬を扱う部分は別のルールで動いています。
タトゥースタジオの非医療従事者が、独自に麻酔薬を処方したり注射したりすることは、医療行為としての規制の対象になり得ます。医療機関では、医師や歯科医師の判断のもとで、あるいは医師の指示にもとづく診療補助として扱われます。なお、PMDA(医薬品医療機器総合機構)は「リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射剤」の添付文書改訂に関する資料を出しています[3]。これは注射剤に関する内容で、塗るタイプの表面麻酔そのものを直接あつかう資料ではありません。
投与の可否は、患者さんの状態を確認したうえで医療現場で判断されます。
塗るタイプの麻酔(表面麻酔)の働き
スタジオでよく話題になるのが、皮膚にぬる「表面麻酔」です。リドカインなどを含むクリームをぬり、針が当たる痛みをやわらげます。リドカインとプリロカインを混ぜたEMLAクリームの研究では、小さな処置のときの針の痛みを下げる効果が確かめられています[18]。また、健康な成人36人に、リドカイン7%とテトラカイン7%のピール剤を最大200cm²・最大90分・密封せずに1回ぬった研究では、血液中に入る麻酔薬の量はとても少なかったと報告されています[12]。
つまり、研究で定められた対象・面積・時間・皮膚の状態の範囲では、血中濃度が低く、有害事象が少なかったということです。ただし、これをタトゥー施術中の傷ついた皮膚や、広い範囲・長時間・密封の使い方へ、そのまま当てはめることはできません。
高濃度リドカイン製品にFDAが警告を出しています
海外通販で出回る高濃度の塗る麻酔について、アメリカのFDA(食品医薬品局)が警告を出しています。2024年3月、FDAは高濃度の市販リドカイン外用剤を売っていた6社に警告書を出しました[5, 7]。アメリカのOTC(市販)外用鎮痛薬の基準では、リドカインの濃度は0.5〜4%とされており、問題視された製品はこの範囲を大きく超えていました[8]。これは米国の市販基準の話で、日本国内での承認や販売の可否を示すものではありません。
対象には、タトゥー界隈でも名前を聞くTKTX 40%やJ-CAIN 29.9%などが含まれていました[5, 8]。さらに2025年2月には、FDAがTKTX Numb Storeに警告書を出し、未承認のまま売られていたことや表示の不備を指摘しています[6]。インターネットで気軽に買える製品には、安全性や品質が確認されていないものが混ざっています。価格や口コミだけで選ぶと、思わぬ健康被害につながるおそれがあります。
塗る麻酔でも全身に吸収されることがあります
表面麻酔は「塗るだけだから安心」と思われがちです。ですが、次のような使い方が重なると、皮膚から血液に入り、全身に影響することがあります[9, 11]。
- 濃度が高い
- 広い範囲にぬる
- ラップなどで密封する
- 長い時間そのままにする
1999年には、40%という非常に高い濃度のリドカインクリームを密封して長く置いた結果、全身に吸収された例が報告されています[9]。これは特殊な高濃度製剤を密封・長時間使った1件の症例報告で、通常の濃度で医療の管理のもとに使う場合とは区別して読む必要があります。また、皮膚を細かく傷つけるレーザーと一緒に使った例でも、全身に毒性が出たケースが知られています[10]。
日本麻酔科学会のガイドラインも、局所麻酔薬を使うときは中毒に注意するよう求めています[4]。吸収が進むと、不整脈、けいれん、呼吸困難など命にかかわる症状につながることがあります。
アレルギーや接触皮膚炎にも注意します
気をつけたいのは、中毒だけではありません。リドカインに対して、数日かけて赤みやかゆみが広がる、遅れて出るタイプのアレルギーを起こす人がいることが、症例の集積として医学的に報告されています[13]。近年は、市販の鎮痛クリームに入ったリドカインで接触皮膚炎を起こした例も報告されています[14]。タトゥーの表面麻酔も長い時間皮膚にとどまるため、同じような反応が起きる余地があります。
過去に歯科や医療機関で麻酔を使ったとき、かゆみや発疹が出た方は、施術前にスタジオへ伝えたい情報です。
タトゥー自体の合併症も考えておきます
麻酔とあわせて、タトゥーそのもののリスクも知っておきたいところです。医学的な総説では、色素への過敏反応、しこりのようになる肉芽腫、感染症などが整理されています[15]。一時的な赤みや腫れは、ふつうの治る過程でも起こります。ですが、過敏反応や肉芽腫、感染など、治療が必要な合併症もあります[15]。重い例として、2025年には日本から、タトゥーに関連した毒素性ショック症候群(TSS、=細菌の毒素で全身が一気に悪くなる状態)の症例が報告されました[16]。
頻度は高くないものの、施術後の体調の変化を軽く見てはいけないことを示しています。WebMDの医師レビュー記事でも、施術後に赤みや腫れ、痛みが1週間以上続く場合は医療機関の受診がすすめられています[17]。麻酔の影響なのか、感染や色素への反応なのかは見分けが難しいため、長引くトラブルは医療機関に相談するのが安全です。
施術前に整理しておきたい確認事項
施術前に自分で整理したい項目をまとめます。
- 過去に麻酔薬や塗り薬、内服薬でアレルギーや体調不良が出たことがあるか[13, 14]
- 施術する部位の皮膚の状態(アトピーや湿疹でバリアが落ちていないか)[11]
- 心臓の病気やてんかんなど、中毒で悪化しやすい持病の有無[3, 4]
- 妊娠中・授乳中ではないか、いま飲んでいる薬はないか
- 直前にレーザー治療や脱毛など、皮膚に負担のかかる処置を受けていないか[10]
アトピーや湿疹でバリアが落ちている部分は、麻酔薬の吸収が増えやすいことが知られています[11]。レーザーで傷んだ皮膚に塗る麻酔を重ねると、吸収が大きく増えるおそれが指摘されています[10]。
医療機関と連携できるスタジオを選ぶ
東京には数多くのスタジオがあり、麻酔の使い方も店ごとに違います。選ぶときは、麻酔をどう使うのか、使わない場合はなぜ使わないのかを、事前にきちんと説明してくれるかを見ておきたいところです。FDAが高濃度製品に繰り返し警告を出している状況を踏まえると、製品名や濃度まで答えてくれるかは一つの手がかりになります[5]。もう一つの視点が、トラブルが起きたときの体制です。
医療機関と連携し、相談できる体制があるかどうかは、長引く赤みやしこり、感染が疑われるときに大きな差になります[17]。タトゥーに伴う合併症は、医学的に整理・研究されているテーマでもあります[15]。inklyは医師が代表を務めるクリニック inklinic と連携し、こうした場合にも相談できる体制を整えています。なお、海外通販の高濃度クリームを、自分の判断で持ち込んで使うのは避けたい行動です。少なくとも安全性や品質が確認できず、FDAが警告した製品もあるためです[5]。
まとめ
タトゥーを入れる行為と麻酔とでは、日本でのルールが分かれています。表面麻酔は痛みをやわらげる助けになりますが、「塗るだけだから安心」ではありません。高濃度製品や誤った使い方では、全身への吸収やアレルギーのリスクがあります。だからこそ麻酔は医療の管理のもとで扱うべきもので、自己判断での使用は避けたいところです。アレルギー歴や持病、皮膚の状態を事前に伝え、麻酔の方針と、医療機関との連携を説明してくれるスタジオを選ぶ。
それが、安心して施術を受けるための土台になります。inklyは医師が代表を務めるクリニック inklinic と連携し、医療の管理のもとで麻酔を扱っています。痛みへの不安があれば、まずは気軽にご相談ください。
参考文献
[1] 最高裁判所第二小法廷 (2020). 医師法違反被告事件 決定(令和2年9月16日・平成30年(あ)1790号). 刑集74巻6号581頁(判例集掲載情報).
[2] 日本経済新聞 (2020). タトゥー施術は医師免許不要 最高裁が初判断. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63999100X10C20A9CR8000/
[3] PMDA(医薬品医療機器総合機構) (2021). リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射剤の『使用上の注意』の改訂について. PMDA. https://www.pmda.go.jp/files/000239179.pdf
[4] 日本麻酔科学会 (2018). 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版. 日本麻酔科学会. https://anesth.or.jp/files/pdf/local_anesthetic_20190418.pdf
[5] U.S. Food and Drug Administration (2024). FDA Warns Consumers to Avoid Certain Topical Pain Relief Products Due to Potential Dangerous Health Effects. U.S. FDA. https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-warns-consumers-avoid-certain-topical-pain-relief-products-due-potential-dangerous-health
[6] U.S. Food and Drug Administration (2025). Warning Letter to TKTX Numb Store. U.S. FDA. https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/tktx-numb-store-697051-02252025
[7] Pharmacy Times (2024). FDA Issues Letters to 6 Companies for Unapproved, Misbranded OTC Analgesic Products. Pharmacy Times. https://www.pharmacytimes.com/view/fda-issues-letters-to-6-companies-for-unapproved-misbranded-otc-analgesic-products
[8] Healio (2024). FDA issues warning for OTC topical pain relievers with high levels of lidocaine. Healio. https://www.healio.com/news/dermatology/20240401/fda-issues-warning-for-otc-topical-pain-relievers-with-high-levels-of-lidocaine
[9] Journal of the American Academy of Dermatology (1999). A case of lidocaine absorption from topical administration of 40% lidocaine cream. JAAD. https://www.jaad.org/article/S0190-9622(99)70067-8/fulltext
[10] Marra DE, et al. (2006). Systemic toxicity from topically applied lidocaine in conjunction with fractional photothermolysis. Archives of Dermatology. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16924052/
[11] Cureus (2025). Systemic Risks of Topical Anesthetics in Barrier-Compromised Dermatologic Patients. Cureus. doi:10.7759/cureus.84157
[12] Ogden S, et al. (2008). Systemic exposure to lidocaine and tetracaine is low after an application of a lidocaine 7%–tetracaine 7% peel in adults. International Journal of Dermatology (Wiley). https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-4632.2007.03331.x
[13] Amado A, et al. (2007). Contact allergy to lidocaine: a report of sixteen cases. Dermatitis. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18021602/
[14] Annals of Allergy, Asthma & Immunology (2024). Allergic Contact Dermatitis from Lidocaine in Pain Relief Cream: A Case Report. Annals of Allergy, Asthma & Immunology. https://www.annallergy.org/article/S1081-1206(24)01050-0/fulltext
[15] Journal of the American Academy of Dermatology (2024). Esthetic and medical tattooing: Part I. JAAD. https://www.jaad.org/article/S0190-9622(24)00964-2/abstract
[16] Kubo T, et al. (2025). Tattoo-associated toxic shock syndrome: a case report. International Journal of Emergency Medicine (BMC). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12486882/
[17] WebMD (n.d.). Tattoos: What You Need to Know. WebMD(医師レビュー記事). https://www.webmd.com/skin-problems-and-treatments/tattoos-what-you-need-know
[18] Shaikh FM, Naqvi SA, Grace PA (2009). The influence of a eutectic mixture of lidocaine and prilocaine on minor surgical procedures: A randomized controlled double-blind trial. Dermatologic Surgery. doi:10.1111/j.1524-4725.2009.01160.x
Medical Supervisor

須賀 公佑すが・こうすけ
医師・認定産業医
inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役
慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。
タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

