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    痛み・麻酔読了 約16分

    タトゥーの痛みを抑える麻酔クリーム、効くしくみと注意点

    タトゥーの麻酔クリームはなぜ痛みをやわらげるのか。効くしくみと届く深さの限界、FDAの警告や全身への影響まで、医師の管理下で安全に向き合うための知識を整理しました。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師inklinic代表
    目次

    彫る前に塗るだけで、痛みが少しやわらぐ麻酔クリーム。便利な道具ですが、効くしくみや限界はあまり知られていません。どこまで効いて、何に気をつけるべきか、やさしく整理します。

    麻酔クリームが痛みを軽減する理由

    痛みの信号に「ふた」をするしくみ

    表面麻酔クリームはどこに効く? 表面麻酔クリーム 表皮 真皮 クリームが効く浅い層 痛みの信号をやわらげる 痛みを感じる神経 針が届く深さ(真皮) クリームは皮ふの浅い層の痛覚をやわらげる。深い真皮には届きにくく、痛みはゼロにはならない。

    麻酔クリームによく使われるリドカインは、神経の「ナトリウムチャネル」という小さな入り口に作用します[1]。神経が痛みを伝えるときは電気の信号が走り、そのためにこのチャネルが開きます。リドカインがふたをすると信号が走れず、痛みの情報が脳まで届きにくくなります[2]。これは全身麻酔のように意識を落とすものではなく、塗った場所の感覚だけが局所的に鈍くなります[3]。

    効果が一時的なのも、このしくみからきています。時間がたって薬が神経から離れると、ふたが外れて信号がまた流れ始めます[1]。

    神経は皮膚の奥にある

    痛みを感じる神経の先は皮膚の外側ではなく、その下の「真皮」という層にあります。タトゥーの針が色を入れるのもこの真皮です。つまり表面に塗るだけでは薬は神経まで届かず、角質を通り抜けて奥まで入る必要があります[4]。そのため麻酔クリームは、ラップなどで覆い、時間を置いて吸収を待つ使い方が前提です[4, 7]。採血のような小さな処置と、広く痛い皮膚処置では必要な時間がちがい、添付文書も処置ごとに目安を分けています[4, 7]。

    なお、タトゥー施術そのものは添付文書が想定する用途ではありません。使う場合も、医療的な管理のもとで判断する前提だと考えてください。

    濃度と時間で効きかたは変わる

    麻酔クリームと一口に言っても、成分や濃度はさまざまです。医療現場で広く使われるおだやかな処方もあれば、より濃い処方ほど短い時間でも効きやすくなります[7]。レーザーによるタトゥー除去の前に、高濃度の処方を短時間塗り、真皮に麻酔が得られたとする報告もあります[5]。ただし濃度を上げるほど皮膚から体に入る量も増えるため、濃い製品は医療的な管理が欠かせません。また同じ製品でも、角質の厚さや血流、その日の皮膚の状態で効きかたは変わります[6]。

    どこに、どれだけ、どのくらい使うかは、施術の場所に合わせた調整が必要です。

    痛みはゼロにはならない

    麻酔クリームに大きな期待を寄せる方は多いですが、表面麻酔には届く深さに限界があります[6]。針が真皮の深い場所まで入る施術では、麻酔が届かない層で痛みを感じることがあります。とくにラインワークやシェーディングでは、後半に痛みが戻る場面もあります。麻酔クリームは「痛みを軽くする」道具であって、「無痛にする」道具ではありません[6]。どれくらいやわらぐかは製品や時間、部位や個人差で大きく変わり、効きめを保証するものではありません。

    彫り師と相談し、痛みが強い部位だけ使うなど、現実的な使い方を考えるとよいです。

    塗りすぎが招く全身への影響

    麻酔クリームは皮膚に塗るだけなので、安全なイメージを持たれがちです。しかし広い範囲に、濃い薬を、長く、密封して使うと、薬が血液の中に入り込みやすくなります[9]。塗った場所だけで効くはずの薬が、全身を回り始める状態です。血中の濃度が上がりすぎると、こんな症状が出ることがあります。

    • めまいや耳鳴り
    • けいれん
    • 不整脈や動悸

    これらは「局所麻酔薬全身中毒(LAST)」と呼ばれる状態のサインで、命に関わることもあります[9]。実際に、極端に濃いリドカインクリームを広く塗り、中毒症状を起こした症例も報告されています[8]。濃度・面積・時間・密封の四つがそろうほど、危険は急に大きくなります。異常を感じたら、すぐにクリームを拭き取り、救急や医療機関に相談してください。

    FDAが繰り返す警告

    アメリカの食品医薬品局(FDA)は2024年、タトゥーや美容処置の前後に使う市販の外用鎮痛製品について、消費者向けの警告を出しました[10]。FDAは市販品として認められる濃度を超えるリドカイン製品に注意を促し、消費者にはリドカイン4%を超える市販品を使わないよう助言しています[11]。吸収が増える使い方では、不整脈やけいれん、呼吸困難などの恐れがあるためです。

    さらに2025年4月、FDAは大手通販のAmazon.com宛にも警告書を出しました[12]。指摘の中心は、次のような点です。

    • 市販で認められる濃度の範囲を超えていること
    • 認められていない成分の組み合わせを含むこと
    • タトゥーなどをうたう表示が、市販の基準に合わないこと

    こうした製品は、未承認の薬や不当な表示として問題視されました。日本にいる読者にとっても他人事ではありません。個人輸入や海外通販で手軽に買える製品ほど、品質や安全性の確認が難しいものが混ざります。安いから、よく効くからという理由だけで選ぶのは避けたいところです。

    アレルギーやプリロカイン特有のリスク

    リドカインそのものへのアレルギー反応も報告されています。複数の患者で接触皮膚炎が確認された症例集積研究[13]や、市販の鎮痛クリームで皮膚炎が出た症例があります[14]。塗った場所が赤くなる、強くかゆむ、ぶつぶつが出る。こうした反応が出たら、すぐに使用をやめてください。少量を試して刺激感を確かめられる場合はありますが、それでアレルギーを確実に除けるわけではありません。

    アレルギーは時間をおいて出ることがあり、自己流の試しでは見逃すおそれがあるためです。過去に局所麻酔薬や外用薬でかぶれた方は医師や薬剤師に相談し、必要なら医療機関でパッチテストを受けてください。また、プリロカインを含む製剤では「メトヘモグロビン血症」という血液の異常にも注意が必要です[4]。これは赤血球が酸素をうまく運べなくなり、唇が紫っぽくなる、息苦しいなどの症状が出る状態です。

    とくに次のような方は注意が必要です。

    • 乳児や早産児
    • G6PD欠損やメトヘモグロビン血症の既往がある方
    • 心臓や肺の病気がある方
    • 酸化性の薬を使っている方

    安全に使うために確認したいこと

    麻酔クリームを使うかは、まず関係者に相談して決めてください。役割を分けると整理しやすいです。

    • 施術上の可否やタイミング → スタジオに確認する
    • 製品の選び方、禁忌、副作用のリスク → 医師や薬剤師に確認する

    麻酔クリームは医薬品であり、高濃度品や広範囲、密封、持病が関わる判断は彫り師だけでは担えません。自己判断で広範囲に塗るのではなく、その日の計画に合った使い方を決めるのが安全です[11]。製品を使うときは、書かれた濃度・時間・密封の条件を必ず守ってください[4]。「もっと効かせたいから」と量を増やしたり時間を延ばしたりすると、体内に入る薬の量が一気に増えます[9]。

    途中で、めまいや動悸、しびれ、強いかぶれを感じたら、クリームを拭き取り、医療機関に相談してください[9]。

    まとめ

    麻酔クリームは、神経の信号に一時的にふたをして痛みをやわらげます。ただし届く深さには限界があり、痛みをゼロにはできません。濃い薬を広く長く使うほど全身への影響というリスクが高まり、FDAも市販の高濃度品について繰り返し警告しています。便利な道具ですが、薬であることに変わりはありません。しくみと限界を知り、医師の管理のもとで使う。そうすれば、痛みとのつき合い方も落ち着いたものになります。

    参考文献

    [1] StatPearls. Lidocaine. NCBI Bookshelf (NBK539881). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539881/

    [2] Hermanns H, et al. (2019). Molecular mechanisms of action of systemic lidocaine in acute and chronic pain: a narrative review. British Journal of Anaesthesia. https://www.bjanaesthesia.org/article/S0007-0912(19)30501-X/fulltext

    [3] Mechanisms of (local) anaesthetics on voltage-gated sodium and other ion channels. British Journal of Anaesthesia. https://www.bjanaesthesia.org.uk/article/S0007-0912(17)37590-6/fulltext

    [4] FDA (2018). EMLA Cream Prescribing Information. U.S. Food and Drug Administration. https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/019941s021lbl.pdf

    [5] Bryan HA, Alster TS (2004). A lidocaine 7% and tetracaine 7% peel for dermal anesthesia before laser-assisted tattoo removal in adults. Journal of the American Academy of Dermatology. https://www.jaad.org/article/S0190-9622(04)02958-5/fulltext

    [6] Local Anesthetics in Cosmetic Dermatology (2017). Cutis / MDedge. https://www.mdedge.com/dermatology/article/139776/aesthetic-dermatology/local-anesthetics-cosmetic-dermatology

    [7] EMLA Cream 5% Summary of Product Characteristics (SmPC). electronic Medicines Compendium (EMC, UK). https://www.medicines.org.uk/emc/product/871/smpc

    [8] Marra DE, et al. (1999). A case of lidocaine absorption from topical administration of 40% lidocaine cream. Journal of the American Academy of Dermatology. https://www.jaad.org/article/S0190-9622(99)70067-8/fulltext

    [9] StatPearls. Lidocaine Toxicity. NCBI Bookshelf (NBK482479). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482479/

    [10] Healio Dermatology (2024). FDA issues warning for OTC topical pain relievers with high levels of lidocaine. https://www.healio.com/news/dermatology/20240401/fda-issues-warning-for-otc-topical-pain-relievers-with-high-levels-of-lidocaine

    [11] HCPLive. FDA Issues Warning for Topical Analgesics with High Levels of Lidocaine. https://www.hcplive.com/view/fda-issues-warning-topical-analgesics-high-levels-lidocaine

    [12] FDA (2025). Warning Letter to Amazon.com, Inc. U.S. Food and Drug Administration. https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/amazoncom-inc-689355-04172025

    [13] Amado A, Sood A, Taylor JS (2007). Contact allergy to lidocaine: a report of sixteen cases. Dermatitis (PubMed). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18021602/

    [14] Allergic contact dermatitis from lidocaine in pain relief cream: a case report. Annals of Allergy, Asthma & Immunology. https://www.annallergy.org/article/S1081-1206(24)01050-0/fulltext

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

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