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タトゥーの部位にできた皮膚がん、報告の多くは症例報告
タトゥーを入れた皮膚にがんができたという話を聞いて、不安になった方もいるでしょう。こうした報告をまとめた系統的レビューが2024年に出ています[1]。系統的レビューは、決まった手順で文献を広く集め、全体を見渡す研究です。著者らは複数の医学文献データベースを2023年2月23日まで検索しました。その結果、1938年以降の文献から105報・160人の報告が集まりました[1]。
105報の内訳は、症例報告70報、症例集積2報、編集者宛書簡18報、写真クイズ2報、抄録9報、後ろ向き観察研究4報でした[1]。大半は、こういう患者さんがいたという1例ごとの報告です。症例報告は珍しい出来事を知らせる大切な記録です。ただし、タトゥーのある人とない人で発生率を比べるものではありません。著者ら自身も、160例は発生リスクを比べる疫学研究ではないと述べています[1]。
色についての数字もあります。160例のうち、赤色の色素の中に生じた報告は59例(36.9%)でした[1]。ただしこれは、報告された例の中での割合です。赤いタトゥーのほうががんになりやすいことを示す数字ではありません。著者らは、症例報告ごとに記載の仕方がばらばらなことと、標本数が小さいことを、このレビューの限界に挙げています[1]。
疫学研究は、どの国でどう調べたのか
症例報告だけでなく、タトゥーのある人とない人を比べた疫学研究も複数あります。フランス[2]、米国のユタ州[3]とニューハンプシャー州[6]、スウェーデン[4]、デンマーク[5]、オランダ[7]で報告されています。疫学研究は、たくさんの人のデータから、病気と生活習慣などとの関係を調べる研究です。方法は大きく分けて、コホート研究、症例対照研究、双生児研究、全国登録研究があります。
コホート研究は、ある集団の中で、タトゥーのある人とない人のがんの発生を比べる方法です。フランスの研究は、111,074人の全国コホートを使いました[2]。症例対照研究は、がんになった人(症例)と、年齢などをそろえたがんでない人(対照)を集めて、過去のタトゥー歴を比べる方法です。ユタ州[3]、スウェーデン[4]、ニューハンプシャー州[6]の研究がこれにあたります。
双生児研究は、遺伝や育った環境が近いふたごを比べて、それらの影響を小さくしようとする方法です。デンマークの研究は双生児登録を使いました[5]。オランダの研究は、全国の病理登録から1991年から2023年のタトゥー部位の病変を集め、国全体のがん登録と照らし合わせています[7]。調べ方が違えば、得意なことと苦手なことも違います。結果を見るときは、この違いが手がかりになります。
大規模な研究では、増加は見られなかった
フランスの研究は、2012年から2018年に登録された18歳から69歳の成人111,074人が対象です[2]。このうち1,789人(1.6%)に皮膚がんがありました。内訳は悪性黒色腫693人、それ以外の皮膚がん(非黒色腫皮膚がん)1,096人です[2]。悪性黒色腫は、色素をつくる細胞から生じる皮膚がんです。分析の結果、タトゥーの有無は、皮膚がん全体、悪性黒色腫、非黒色腫皮膚がんのどれとも関連が見つかりませんでした[2]。
タトゥーの面積が手のひら2枚分を超える群では、1,633人中2人(0.1%)に皮膚がんがありました[2]。ハザード比(起こりやすさの比)は0.26で、95%信頼区間は0.07から1.05でした。統計学的な差はありません[2]。スウェーデンでは、皮膚扁平上皮がん2,857人と、年齢・性別をそろえた対照を調べました[4]。回答した症例1,600人、対照4,551人のうち、タトゥーがあった人は症例15.1%、対照17.6%でした。発症率比は0.95(95%信頼区間0.78から1.15)で、増加は示されませんでした[4]。
オランダの全国病理登録を使った研究は、1991年から2023年にタトゥー部位に生じた悪性黒色腫を94例集めました[7]。同じ期間に国全体で診断された悪性黒色腫142,492例のうち、0.07%にあたります。ただしこの研究は、タトゥーのある人とない人の発症率を比べたものではありません。タトゥーをしている人の総数や面積、観察した人年のデータがないため、0.07%という数字を、タトゥーによる発症リスクの大小や因果関係の判断に使うことはできません。94例の診断時年齢の中央値は48.0歳で、61例(64.9%)が男性でした。腫瘍の厚さの中央値は0.9mm、72例(76.6%)が病期Iでした[7]。著者らは、因果関係を最終的に除外はできないとしつつ、支持する証拠は得られなかったと述べています[7]。
一方で、増加を示した研究もある
デンマークの研究は、1960年から1996年生まれの双生児を対象にしています[5]。2,367人のコホート研究では、基底細胞がんを除く皮膚がんが16人、別に集計された基底細胞がんが29人でした。タトゥーのある人をない人と比べたハザード比は、基底細胞がんを除く皮膚がんが3.91(95%信頼区間1.42から10.8)、基底細胞がんが2.83(同1.30から6.16)でした[5]。どちらも、タトゥーのある人のほうが多いという結果です。悪性黒色腫についても、スウェーデンの全国登録を使った症例対照研究で、診断時20歳から60歳の症例2,880人と、年齢・性別をそろえた対照候補が選ばれました。実際に参加した症例1,598人と対照4,097人の解析で、タトゥーのある人をない人と比べた調整後の発症率比は1.29(95%信頼区間1.07から1.56)でした[9]。
デンマークの研究の症例・コツイン解析では、皮膚がんの症例119人と対照104人を調べ、ハザード比は1.62(95%信頼区間1.08から2.41)でした[5]。ところが、皮膚がんとタトゥー歴がふたごの間で異なる14組だけに絞ると、ハザード比は1.33(同0.46から3.84)でした[5]。この解析では、はっきりした差は出ていません。著者らは、日光を浴びた量の情報がないこと、この解析が14組に基づくことを限界に挙げています[5]。
米国ニューハンプシャー州の研究は、25歳から50歳の早期発症基底細胞がんと、美容タトゥーの関係を調べました[6]。美容タトゥーの経験は、症例156人(17%)と対照213人(26%)から報告されています。美容タトゥーがある人の中で、がんがタトゥー部位に出た場合を別の部位と比べた調整オッズ比は1.8(95%信頼区間1.0から3.2)でした[6]。黄色と緑色で最も強い関連が見られました。著者らはこれを予備的な所見としています[6]。
数字が小さい、大きいだけでは判断できない理由
米国ユタ州の研究は、悪性黒色腫の1,167人と、年齢などをそろえた対照5,835人を比べました[3]。症例の内訳は、上皮内悪性黒色腫566人、浸潤性悪性黒色腫601人です。タトゥー経験の有無は、悪性黒色腫と強くは関連しませんでした[3]。さらに、4回以上施術を受けた人のオッズ比は0.44(95%信頼区間0.27から0.67)でした。大きなタトゥーが3個以上の人は0.26(同0.10から0.54)でした[3]。一見すると、タトゥーが多い人ほどがんが少ないように見えます。
しかし著者らは、重要な悪性黒色腫のリスク因子を調整できなかったと明記しています。そのため、測っていない要因(未測定の交絡)が結果に影響した可能性が高いとしています[3]。交絡とは、比べたい要因以外の違いが結果をゆがめることです。たとえば日焼けの習慣がグループ間で違えば、タトゥーとは関係なく、がんの数に差が出ます。デンマークの研究でも、日光を浴びた量の情報がないことが限界とされています[5]。
数字を読むときは、95%信頼区間にも注目してください。ハザード比やオッズ比が1なら、両グループで差がないことを意味します。信頼区間が1をまたいでいれば、差があるとは言い切れません。フランスの面積が大きい群は0.07から1.05[2]、デンマークの14組の解析は0.46から3.84でした[5]。どちらも1をまたいでいます。症例の数が少ないほど、この幅は広くなります。
なぜ、はっきりした結論がまだ出ないのか
多くの研究は、がんの診断がついた後で、タトゥー歴をたずねています。フランスの研究では、皮膚がんの診断は2007年から2021年のデータで、タトゥー歴の聞き取りは2020年から2023年でした[2]。スウェーデンの研究では、2014年から2017年に診断された人に、2019年に質問票を送っています[4]。何年も前のことを思い出して答えるため、記憶の正確さにばらつきが出ます。フランスの著者らも、この後ろ向きの設計を研究の弱点として示しています[2]。
症例の数が少ないことも課題です。デンマークの一致解析は14組に基づいており[5]、フランスの面積が大きい群でがんがあったのは2人でした[2]。日光を浴びた量の情報がない研究もあります[5]。症例報告は記載の仕方がそろっていません[1]。フランスの著者らは、より多くの症例と詳しい曝露評価を含む研究が必要だと結論しています[2]。スウェーデンの著者らも、関連がないという合意に達するには、さらに疫学研究が必要だと述べています[4]。
現時点では、増加を示さない大規模な研究が複数ある一方[2, 4]、増加を示す研究も報告されています[5, 6, 9]。オランダの全国病理登録研究は、タトゥーのある人とない人を比べた設計ではないため、この整理には含めていません。ただし著者らは、因果関係を支持する証拠は得られなかったとも述べています[7]。研究ごとに国、がんの種類、調べ方が違い、結果はそろっていません。危険だと決めつける段階ではありません。安全だと言い切れる段階でもありません。だからこそ、今わかっている専門家の助言に沿って、入れる場所や肌の状態に気を配ることが大切です。
ほくろがある人が、入れる前に気をつけたいこと
欧州皮膚科性病学会(EADV)のタトゥー専門部会は、患者向けの資料で具体的な助言をしています[8]。まず、ほくろの上や、正体の分からない皮膚病変の上にはタトゥーを入れないことです。また、非典型的なほくろ(形や色がふぞろいなほくろ)が多い若い人には、ほくろの多い部位を塗りつぶすタトゥーを避けるよう勧めています[8]。
過去に悪性黒色腫を切除した人への助言もあります。手術痕とその周辺、リンパ流域(がんが広がるときに通りやすいリンパの通り道)には、タトゥーを入れないよう記しています[8]。再発や転移がないかを定期的に確認する必要があるためです。EADVの資料は、家族に悪性黒色腫の人がいることをリスク因子のひとつとして挙げています[8]。そのうえで、ほくろが多い人や、過去に悪性黒色腫と診断されたことがある人には、施術前に皮膚科医の診察を受けるよう勧めています[8]。
入れたい場所にほくろやしみがあって気になる方は、予約時にご相談ください。ほくろを避けた配置や、デザインの位置を少しずらす方法を一緒に考えます。不安なほくろがある方は、先に皮膚科で診てもらってから施術日を決めると安心です。施術後も、肌に新しいできものや見た目の変化があれば、早めに皮膚科を受診してください。
よくある質問
タトゥーを入れると皮膚がんになりやすくなりますか?
研究によって結果が分かれています。フランスで11万人あまりを調べた研究や、スウェーデンの皮膚扁平上皮がんの研究では、増加は示されませんでした。一方、デンマークの双生児研究や、米国ニューハンプシャー州の美容タトゥーの研究では、増加を示す結果が報告されています。どの研究も著者自身が弱点を挙げており、結果はまだそろっていません。
タトゥーの部位に皮膚がんができたという話は本当ですか?
そうした症例の報告はあります。2024年の系統的レビューでは、1938年以降の文献から105報・160人の報告が集められました。ただし大半は1例ごとの症例報告で、タトゥーのある人とない人で発生率を比べたものではありません。
赤いインクは皮膚がんになりやすいのですか?
症例報告をまとめたレビューでは、160例のうち59例(36.9%)が赤色の色素の中に生じた報告でした。ただし、これは報告された例の中での割合です。赤いタトゥーのほうががんになりやすいことを示す数字ではありません。
ほくろの上にタトゥーを入れてもいいですか?
欧州皮膚科性病学会(EADV)の患者向け資料は、ほくろや正体の分からない皮膚病変の上にはタトゥーを入れないよう勧めています。気になるほくろがある位置に入れたい場合は、予約時にご相談ください。
悪性黒色腫の手術を受けたことがあります。タトゥーは入れられますか?
EADVの資料は、切除した悪性黒色腫の手術痕とその周辺、リンパ流域にはタトゥーを入れないよう記しています。再発や転移を定期的に確認する必要があるためです。悪性黒色腫の既往がある人や、ほくろが多い人には、施術前の皮膚科受診も勧めています。
参考文献
[1]. Jamie Lebhar, Jennifer Jacobs, Chandler Rundle, Samantha J. Kaplan. Skin cancers arising within tattoos: A systematic review. (JAAD International, 2024). doi:10.1016/j.jdin.2024.03.015. リンク
[2]. Tingting Mo, et al.. Tattoos and risk of cutaneous melanoma and nonmelanoma skin cancer in France. (Journal of the National Cancer Institute, 2026). doi:10.1093/jnci/djaf332. リンク
[3]. Rachel D. McCarty, Britton Trabert, Lindsay J. Collin, Morgan M. Millar, David Kriebel, Laurie Grieshober, Mollie E. Barnard, Jenna Sawatzki, Marjorie Carter, Valerie Yoder, Jeffrey A. Gilreath, Douglas Grossman, John Hyngstrom, Paul J. Shami, Jennifer A. Doherty. Tattooing and risk of melanoma: a population-based case-control study in Utah. (Journal of the National Cancer Institute, 2025). doi:10.1093/jnci/djaf235. リンク
[4]. Emelie Rietz Liljedahl, Malin Engfeldt, Kari Nielsen, Anna Jöud, Christel Nielsen. Tattoos and cutaneous squamous cell carcinoma: a population-based case-control study. (European Journal of Epidemiology, 2025). doi:10.1007/s10654-025-01230-z. リンク
[5]. Signe Bedsted Clemmensen, Jonas Mengel-From, Jaakko Kaprio, Henrik Frederiksen, Jacob von Bornemann Hjelmborg. Tattoo ink exposure is associated with lymphoma and skin cancers – a Danish study of twins. (BMC Public Health, 2025). doi:10.1186/s12889-025-21413-3. リンク
[6]. Dorothea Torti Barton, Michael S. Zens, Eleni L. Marmarelis, Diane Gilbert-Diamond, Margaret R. Karagas. Cosmetic Tattooing and Early Onset Basal Cell Carcinoma: A Population-based Case-Control Study from New Hampshire. (Epidemiology, 2020). doi:10.1097/EDE.0000000000001179. リンク
[7]. Joey J.J.P. Karregat, Kim Schipper, Albert Wolkerstorfer, Elisabeth H. Jaspars, Norbertus A. Ipenburg, Nicolas Kluger, Yannick S. Elshot. Incidence of Tattoo-Associated Melanoma in the Netherlands (1991–2023): A Nationwide Registry Study. (Dermatology, 2026). doi:10.1159/000549503. リンク
[8]. EADV Tattoos and Body Art Task Force. What to do if you have had a cutaneous melanoma?. (European Academy of Dermatology and Venereology, 2024). リンク
[9]. Emelie Rietz Liljedahl, Kari Nielsen, Malin Engfeldt, Anna Saxne Jöud, Christel Nielsen. Does tattoo exposure increase the risk of cutaneous melanoma? A population-based case-control study. (European Journal of Epidemiology, 2025). doi:10.1007/s10654-025-01326-6. リンク
Medical Supervisor

須賀 公佑すが・こうすけ
医師・認定産業医
株式会社デルマト 代表取締役
慶應義塾大学医学部を卒業後、A.T.カーニーで戦略コンサルタントとして、国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多くの業界のプロジェクトに携わりました。2024年に、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立しました。
タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔クリームの扱いや衛生管理など、医学の知識にもとづいた安心・安全な施術環境を整えています。日本で、タトゥーに医学・科学の立場から取り組む第一人者です。
