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「タトゥーがあるとMRIは受けられない」こんな話を聞いたことがあるかもしれません。でも実際の研究やガイドラインを見ると、事情はもう少し落ち着いた姿をしています。最新の臨床データと症例報告をもとに、本当に注意すべき点を整理します。
「タトゥーがあるとMRIが受けられない」は本当か
「タトゥーがあるとMRIは受けられない」という話は、SNSや知人の体験談を通じてよく耳に入ってきます。けれども実際の医療現場では、タトゥーがあることだけを理由に検査を断られる場面は多くありません。米国食品医薬品局(FDA)も消費者向けの案内で、タトゥーがMRIの絶対的な禁忌(=絶対にやってはいけないこと)だとは書いていません[4]。検査前に申告したうえで、医療スタッフが状態を確認しながら進めるのが標準的な流れです。
通説と現場のずれを生んでいるのは、過去の症例報告が強いイメージを残してきたからだと考えられます。実際には、近年の前向き研究(=あらかじめ計画して被験者を追跡する研究)で、深刻なトラブルはまれだと報告されています[1, 2]。この記事では、有害事象の頻度、熱や痛みが起きる仕組み、報告されているトラブルの中身、アートメイクの注意点、そして事前申告の大切さを順番に見ていきます。

出典:Photo by Accuray on Unsplash
研究が示す「実際にどれくらい起きるのか」
近年もっとも引用されているのが、2019年にNew England Journal of Medicineで報告された前向き研究です。タトゥーのある成人330人に対して3テスラのMRIを行い、皮膚に関する反応を記録しました[1]。結果は落ち着いたものでしたが、まったくゼロというわけではありません。
- 1人は検査のあとに「軽い違和感(ちくちく感)」を報告しましたが、有害反応とは分類されませんでした[1]
- 別の1人は手首のタトゥー周囲に温感と締めつけ感を覚え、この検査は中止されました[1]
- ただしこの症状も24時間以内に自然に軽くなりました[1]
ここで大切なのは、この研究の条件です。この研究は、頭・首・性器のタトゥーを除外し、タトゥーの長さは20cm以下、体表面積の5%以下、装置の出力(SAR)も低めに管理した条件で行われました[1]。ですから「この研究条件ではタトゥー関連の反応はまれで軽かった」とは言えますが、アートメイクや大きなタトゥー、頭や首のタトゥーにそのまま当てはめることはできません[1]。
同じ研究グループは、2018年のISMRM(国際磁気共鳴医学会)でも先行報告を出しています。こちらは319人、573セッションを対象にした同じ系統の前向き研究で、軽度の反応が1件報告されています[2]。つまり、起こりにくさを数字で押さえておくと、検査を前にした不安が落ち着きます。日常的な医療判断としては「タトゥーがあるからやめる」よりも、「申告したうえで条件を整えて受ける」が現実的な選択肢になっています[1, 2]。
なぜ稀に熱感や痛みが起きるのか
MRIは強い磁場と電波を使って体の中を撮影する装置です。インクの中に磁性を帯びた微粒子(=磁石に反応する小さな粒)が含まれていると、磁場や電波の影響を受けて反応が起きることがあると考えられています。ただし、その仕組みは「単純に熱を持つから」と言い切れるほど単純ではありません。患者は熱感や灼熱感、ちくちく感として感じますが、文献レビューでは病態ははっきりせず、はっきりした熱傷と認識されない例も多いとされています[3]。
試験管の中で実際の顔料を強い磁場にさらした実験でも、臨床的に意味のある温度上昇は確認されませんでした[6]。そのため現在は、磁性粒子や黒い炭素の粒の近くで起きる神経への刺激、粒子が受ける引っぱりや回転、表面に流れる電流など、複数の仕組みが仮説として検討されています[5, 8]。とくにアートメイクで使われるパーマネントメイク用インク(PMU)からは、マグネタイト・ゲーサイト・ヘマタイトといった鉄の酸化物が検出されたという報告があります[5]。
さらに、酸化鉄を含まないとされた上眼瞼のパーマネントメイクでも、紅斑(=赤み)と浮腫(=はれ)をともなう第1度熱傷(=軽いやけど)が報告されています[7]。この例では鉛・銅・亜鉛・クロムなどの重金属が含まれ、症状は3日ほどで自然に落ち着きました[7]。つまり、インクの成分だけでは反応の出方を完全には予測できません。装置の出力や撮影部位、コイルとの位置関係など、複数の条件が重なって初めて症状が現れる、と理解しておくのがよさそうです[5, 6, 7]。

出典:(C) Dermart Inc.
実際に報告されているトラブルの中身
2020年にActa Radiologicaで発表された文献レビューでは、MRI検査中にタトゥー関連の症状が出たケースが約17件まとめられています[3]。内訳を見ると、装飾的なタトゥーだけでなく、眉やアイラインなどのアートメイクも一定数を占めていました。レビューによると、症例のうちおよそ29%がパーマネントメイクに関するものでした[3]。報告されている症状で多いのは、検査中の灼熱感やちくちくした刺激、皮膚のうずきといった感覚です。
これらは「神経感覚イベント」とも呼ばれ、装置から出た瞬間に消えてしまうことがほとんどです[8]。皮膚にあとが残らないケースが大半で、検査自体は問題なく終わっています[8]。一方で、もう少し重い例も報告されています。あるプロのアメリカンフットボール選手のケースでは、両膝の膝蓋骨上部(=ひざのお皿の上のあたり)にある黒いタトゥー部分に熱傷が生じたと記録されています[9]。
発赤と腫れが出たものの、皮膚は数日で回復しました[9]。重い側の事例として知っておきたい一方、頻度としてはあくまで例外的な部類に入ります[3, 9]。
アートメイクでとくに注意したい理由
装飾タトゥーよりも、眉やアイラインといったアートメイクのほうが注意度は高めです。理由のひとつは部位です。眼の周囲は、頭部や眼窩(=目の入っている骨のくぼみ)のMRIで見たい場所のすぐ近くにあります。そのため、症状もアーチファクト(画像のゆがみ)も診断のさまたげになりやすいのです[3, 15]。もうひとつは、インクそのものの性質です。先ほど触れたように、PMUインクからは磁性を持つ酸化鉄が検出されています[5]。
装飾用インクと比べて磁性不純物(=意図せず混ざる磁石に反応する成分)が入りやすく、その分だけ磁場に反応しやすい傾向があります。アートメイクでMRI関連の症例報告が多めに見られるのも、この2点が重なるためだと考えられます[3, 5]。こうした点については、米国麻酔科学会(ASA)の2025年年次集会で報告された文献レビューを紹介する記事でも、磁性化粧品やアートメイクのスクリーニング(=事前の確認)が大切だと述べられています[11]。
とくに目の周囲のアートメイクをしている方は、頭部や顔面のMRIを受ける前に「いつ・どこに施術したか」を担当医に伝えておくと、撮影条件の調整に役立ちます。
画像のゆがみ(アーチファクト)という別の問題
MRIとタトゥーの話題では「熱くなるかどうか」がよく注目されますが、もうひとつ知っておきたい論点があります。それが画像のゆがみ、いわゆるアーチファクトです。酸化鉄など金属成分を含む顔料や化粧品は、磁化率の差によって周囲の磁場をゆがめ、その部分の画像に信号の低下や形のゆがみを作ることがあります[10]。とくに困るのが、眼の周囲にアートメイクがある場合の頭部MRIです。
眼窩の近くにあるアートメイクの色素が、脳や眼球の画像に影を落とすことがあります[15]。診断したい場所と影が重なると、医師にとって読影が難しくなります。ここで大事なのは、「安全性」と「診断のしやすさ」を分けて考える姿勢です。タトゥーがあっても検査自体は受けられることが多い一方で、画像の質には影響が出る可能性があります[10, 15]。場合によっては撮影方法を変えたり、別の検査と組み合わせたりして補う判断がなされます。
検査前の申告と、現場でできる対応
ここまでの話をふまえると、現実的にいちばん大切なのは事前の申告です。FDAは消費者向けの案内で、MRIを受ける前にタトゥーやパーマネントメイクがあることを必ず医療スタッフに伝えるよう呼びかけています[4]。米国の大学病院や国内の画像診断クリニックでも、同じ趣旨の案内を出しています[12, 13, 14]。現場では、症状が出にくくなるためのちょっとした工夫が積み重ねられています。
- タトゥー部分に冷却パッドを当てる
- 撮像範囲をできるだけ調整する
- 「熱感や痛みを感じたらすぐにブザーで知らせてほしい」と事前に伝える
こうした対応で、違和感を感じたら遠慮せず合図するだけで、撮影は一時停止できます[13, 14]。「タトゥーがあるとMRIは受けられない」と身構えるよりも、「条件を整えて受ける」と考えるほうが今の医療現場の姿に近いはずです。

出典:Photo by Luis Villasmil on Unsplash
入れたばかりのタトゥーとMRI
入れたばかりのタトゥーに対する影響は、これまで十分なデータがありませんでした。ここで参考になるのが、American Journal of Case Reportsで報告された1件の症例です。この報告では、3週間前に入れた手の甲の黒いタトゥーで、MRI中に強い灼熱痛が起きました[17]。最初の検査は痛みのため中断され、紅斑(赤み)と浮腫(はれ)、のちに結節のような変化も記録されています[17]。
繰り返し検査をするうちに反応は弱まっていく可能性も示唆されましたが、これは1件の症例であり、そのまま一般化することはできません[17]。つまり「新しいタトゥーは必ず安全」とも「必ず危険」とも言い切れない、というのが今わかっていることです。施術直後の皮膚は、まだバリア機能が落ちていて、炎症やかさぶたが残っている時期です。緊急の検査であれば医師の判断で実施されますが、急がない予定検査であれば、施術直後の時期を避けるかどうかを検査施設や主治医に相談するのが安心です。
そして、施術の時期は必ず申告してください。この一手間が、検査の安全と画像の質の両方を支えます。
まとめタトゥーがあること自体は、MRIの絶対的な禁忌ではありません。研究では深刻なトラブルはまれで、多くは検査を出ると消える一時的な感覚です。ただし、温感のために検査が中止された例や、紅斑・浮腫をともなう症例も報告されており、ゼロではありません。とくにアートメイクや入れたばかりのタトゥーは注意度が高めです。大切なのは、タトゥーやアートメイクの位置と施術時期を事前に申告し、条件を整えて受けることです。
参考文献
[1] Callaghan MF, et al. (2019). Safety of Tattoos in Persons Undergoing MRI. New England Journal of Medicine. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1811197
[2] Callaghan MF, et al. (2018). Safety of Tattoos in Patients Undergoing MRI (ISMRM 2018 Proceedings). ISMRM 2018 Proceedings. https://cds.ismrm.org/protected/18MProceedings/PDFfiles/4064.html
[3] Alsing KK, et al. (2020). Tattoo complications and magnetic resonance imaging: a comprehensive review of the literature. Acta Radiologica (SAGE). https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0284185120910427
[4] U.S. Food and Drug Administration. Think Before You Ink: Tattoo Safety. FDA. https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/think-you-ink-tattoo-safety
[5] Serup J, et al. (2023). On the mechanism of painful burn sensation in tattoos on MRI: Magnetic substances in tattoo inks used for permanent makeup (PMU). PMC / NIH. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10155845/
[6] Alsing KK, et al. (2018). MR scanning, tattoo inks, and risk of thermal burn: An experimental study of iron oxide and organic pigments. Skin Research and Technology (Wiley). https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/srt.12426
[7] Franiel T, Schmidt S, Klingebiel R. (2006). First-Degree Burns on MRI due to Nonferrous Tattoos. American Journal of Roentgenology (AJR). https://ajronline.org/doi/full/10.2214/AJR.06.5082
[8] MRI-Induced Neurosensory Events in Decorative Tattoos. Karger / Case Reports in Dermatology. https://karger.com/cde/article/15/1/85/843900/MRI-Induced-Neurosensory-Events-in-Decorative
[9] Ross JR, Matava MJ. Tattoo-Induced Skin 'Burn' During Magnetic Resonance Imaging in a Professional Football Player: A Case Report. https://www.researchgate.net/publication/231215737
[10] Artifacts in Magnetic Resonance Imaging. PMC / NIH. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4340093/
[11] Anesthesiologists Warned of Magnetic Cosmetic & Tattoo MRI Risks. Physician's Weekly. https://www.physiciansweekly.com/post/anesthesiologists-warned-of-magnetic-cosmetic-tattoo-mri-risks
[12] お茶の水駿河台クリニック. MRI検査とタトゥー・アートメイクについて. https://gazo.or.jp/column/mri/16312/
[13] Jefferson Health. Could Tattoos Complicate an MRI Scan? https://www.jeffersonhealth.org/your-health/living-well/could-tattoos-complicate-an-mri-scan
[14] University of Virginia. MRI with Tattoos. UVA Radiology Blog. https://blog.radiology.virginia.edu/mri-with-tattoos/
[15] Permanent cosmetics and magnetic resonance imaging. ResearchGate. https://www.researchgate.net/publication/44801401
[17] Prospective evaluation of new tattoos with repeated MRI. American Journal of Case Reports. https://amjcaserep.com/abstract/full/idArt/943411
Medical Supervisor

須賀 公佑すが・こうすけ
医師・認定産業医
inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役
慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。
タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

