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    タトゥー知識読了 約20分

    消えるタトゥー「エフェメラル」の仕組みと東京で受けるときの注意点

    数年で薄くなる前提で作られた「エフェメラルタトゥー」。仕組みや持続期間、安全性、東京で受けられる場所、日本での法的な扱いを、公開資料をもとにやさしく整理します。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師inklinic代表
    目次

    ずっと残るのはためらうけれど、本物のタトゥーを試してみたい。そんな声に応える形で、東京でも「エフェメラルタトゥー」を受けられる正規取り扱いスタジオが増えています。針で真皮に色を入れる点は普通のタトゥーと同じですが、インクの作り方が違います。この記事では、仕組みや持続期間、安全性、国内での扱いを、公開資料をもとに落ち着いて整理します。

    消えるタトゥー

    エフェメラルタトゥーとは何か

    エフェメラルタトゥーは、針を使って真皮にインクを入れる施術です。真皮とは、皮ふの奥にある層のことです。ここに色を入れる点は、普通のタトゥーとまったく同じです。違うのは、入れるインクの中身です。ブランドの説明では、色のもとになる粒を、体の中で少しずつ分解される素材で包んでいます[1]。この素材は生分解性ポリマーと呼ばれ、医療機器や縫合糸などにも使われる種類の樹脂だと説明されています[1]。

    ただしこれはブランド側の説明です。タトゥーインクとして真皮に数年残す用途での長期的な安全性は、別に検証が必要です。一方、普通のタトゥーインクは、体内で分解されにくい設計です[3]。だからこそ一生残ります。

    なぜ「薄くなる」インクが作れるのか

    エフェメラルが薄くなるしくみ 施術直後 生分解性の殻+色素 数ヶ月 免疫細胞が取り込む 1〜数年 大きく薄くなる 生分解性の殻が分解し、免疫細胞が取り込んで薄くなる。完全に消えることは保証されず、個人差がある。

    皮ふに異物が入ると、マクロファージという免疫細胞が集まります[20]。この細胞は、入った粒を少しずつ取り込もうとします。普通のタトゥー色素は固すぎて、長く分解されずに残ります[3]。エフェメラル社が説明する仕組みは、この免疫の働きを利用するものです[1]。ブランドは、ポリマーが分解して粒子が小さくなり、体の自然な働きで取り除かれていくと説明しています[1, 3]。

    ただし、人での排出経路や量、長期的な影響は、限られた範囲しか分かっていません。背景には、タトゥー色素が体内をどう動くかという研究があります。豚を使った28日間の実験では、色素に含まれる元素が、施術から28日目に近くのリンパ節にたまっている様子が確認されました[20]。同じ研究では、皮ふの中の濃度は7日目から28日目まで大きく変わらず、肝臓や腎臓などの主要な臓器には目立った沈着は確認されませんでした[20]。

    つまり、少なくとも一部の成分は、近くのリンパ節へ移ることがあると考えられます。

    持続期間は本当に「1年で消える」のか

    ここはとても大切な点です。ローンチ当初、Ephemeral社は「およそ1年で薄くなる」と説明していました[9]。しかし利用者からは「思ったより長く残る」という声が相次ぎました[7, 9]。施術から2年たっても線がはっきり見える、という報告も公開されています[7]。大切なのは、退色の数字が世代によって違うことです。現在流通している現行処方(2024年に登場したGen 3)について、メーカーは「2年以内に90%、3年以内に98%が薄くなる」と公表しています[1, 5]。

    これより前の旧処方(2023年のGen 2)では「2年以内に76%」と説明されていました。つまり「90%」と「76%」は別ページの食い違いではなく、世代ごとの目安の違いです。経過写真や退色の数字を見るときは、どの世代のインクかを確かめてください[5]。ただしこれらはいずれもメーカーが公表する目安で、個々のタトゥーが必ずその期間で消えることを保証する数字ではありません。

    Chicago Sun-Timesの取材でも、ブランド側が当初の説明を修正した経緯が報じられました[6]。一方で、Dazedの記事やCBCの報道では、想定より長く残った利用者の例が伝えられています[7, 9]。時間とともに退色しても、薄い色や輪郭、色素沈着などの痕跡が残る可能性があります。完全に消えることは保証されておらず、薄くなる時期や残り方には個人差があります。

    「短期間で確実に消える」と受け止めるのは、正確ではありません。


    Ephemeral社のいまの状況

    Ephemeral社は2023年、米国の直営スタジオの大半を閉鎖しました[8]。ニューヨークやロサンゼルスなどの店舗が対象になったと報じられています[8]。背景には運営コストに加えて、想定より退色しないという品質面の課題も指摘されています[7, 9]。ただし、ブランドやインクの供給は続いています[8]。直営店ではなく、提携アーティストや提携スタジオを通じた形へ軸足を移しました[8]。

    新しいタトゥーが広まるとき、想定どおりにいかないことが起きるのは珍しくありません。利用者の声と公式の説明にズレがあった点は、これから受ける人にも知ってほしい情報です[7, 8, 9]。

    東京で受けられる場所と日本での需要

    日本でもEphemeralの日本語公式ページが用意されています[12]。サイトには東京で施術にあたるアーティスト一覧が掲載されています[13]。予約の流れやデザイン相談の方法も、日本語で説明されています[13]。国内のタトゥー情報サイトでも、取り扱いスタジオの一覧がまとめられています[15]。需要の背景にあるのは、永久タトゥーには踏み切れないけれど、本物の針で入れたタトゥーを試してみたいという気持ちです。

    仕事や家族との関係でためらう層にとって、数年で薄くなる前提のインクは、中間の選択肢として受け止められています。

    安全性をめぐる国際的な評価

    欧州連合(EU)は2022年から、REACH規則の枠組みでタトゥーインクの規制を始めました[16]。REACHは、化学物質を管理するための仕組みです。有害物質について、含有量の上限が定められています[16]。欧州化学品庁(ECHA)は、皮ふのアレルギー反応や、色素がリンパ節へ移ることへの懸念を示しています[17]。米国食品医薬品局(FDA)も、感染症やアレルギーの可能性を繰り返し注意喚起してきました[18]。

    2025年5月には、特定のタトゥーインクから細菌汚染が見つかったとして注意が出されています[19]。これらは、一般のタトゥーインクに向けた規制や注意喚起です。エフェメラル固有の長期安全性を評価した資料ではありません。そのうえで一般論として言えるのは、薄くなるタイプのインクも例外ではない点です。生分解性ポリマー自体は医療でも使われています。しかし、色素を皮ふに数年残す用途での長期的な安全性は、まだ十分に検証されていません[16, 17]。

    「薄くなるから安全」と単純に受け取らないほうがよいでしょう。

    リンパ節への色素移行という論点

    豚を使った28日間の研究では、施術から28日目に、近くのリンパ節へ色素の元素が移っている様子が確認されました[20]。色素は皮ふの中だけにとどまるわけではないことが、実験レベルで確かめられています。人での報告もあります。乳がんの診療では、わきの下のリンパ節に色素がたまり、画像診断で見分けにくくなる例が報告されています[21]。センチネルリンパ節生検という検査でも、タトゥー色素が判断を難しくすることがあると指摘されています[22]。

    センチネルリンパ節生検とは、最初に転移しやすいリンパ節を調べる検査です。薄くなるタイプのインクの場合、リンパ節を経由する量や速さが普通のタトゥーとどう違うのかは、これからの研究課題です[20]。

    医療現場への応用という別の顔

    エフェメラルタトゥーは、医療への応用としても研究されています。米国のヘンリー・フォード・ヘルスとEphemeral社は2023年、放射線治療の位置を示すマーキングへの応用を調べる初期研究を発表しました[10]。これは15人・44個のタトゥーを対象に、安全性や有効性を調べる段階の研究です[10]。初期データは有望とされていますが、臨床的な有用性はまだ確立していません。

    放射線治療では、毎回同じ位置に放射線を当てる必要があります。そのため皮ふへの印が欠かせません。技術系メディアのFreethinkも、永久に残らないマーキングの可能性を取り上げています[11]。この発想自体は新しいものではありません。2022年には、一時的な有機タトゥーシールを放射線治療に使った臨床例が査読論文で報告されています[23]。2001年には、ヘナを使った皮ふマーキングに関する論文も出ています[24]。

    薄くなる印を針で正確な位置に入れたいというニーズは、医療の側にもありました[10, 11, 23, 24]。

    日本国内での法的な位置づけ

    もうひとつ知っておきたいのが、法律の話です。装飾目的のタトゥー施術については、2020年の最高裁決定で、その事案の施術は医行為にあたらないと判断されました[26]。一方、厚生労働省は2023年、医師免許のない人によるアートメイクの扱いについて通知を出しました[26]。アートメイクは眉やアイラインを描くもので、医療従事者が関わる実態などから、別に整理されています[26]。

    また2022年には、タトゥー施術に使う機械器具についての通知も出ています[25]。この通知では、タトゥー施術だけに使う針やマシンは、医薬品医療機器等法上の医療機器には該当しないと整理されました[25]。ただし、病気の診断や治療、予防を目的とする機器は、医療機器として扱われ得ます[25]。つまりエフェメラルの法的な位置づけは、装飾目的か、放射線治療マーキングのような医療目的かによって、考え方が変わります。

    受ける前に、施術者やスタジオがどんな目的でどんな体制で対応しているかを確認しておくと安心です。

    まとめ

    エフェメラルタトゥーは、生分解性のインクを使い、時間とともに退色することを前提に作られたタトゥーです。ただし「短期間で確実に消える」わけではありません。メーカーの目安は最長3年程度で、痕跡が残る可能性もあり、薄くなる時期や残り方には個人差があります。安全性やリンパ節への影響、国内での法的な扱いも、普通のタトゥーと同じ視点で考えることが大切です。東京で受けるときは、正規取り扱いスタジオの体制をよく確認してから決めましょう。

    参考文献

    [1] Ephemeral Tattoo(公式サイト). How It Works(エフェメラルタトゥーの仕組み解説). https://ephemeral.tattoo/how-it-works/

    [3] Chemistry World(英国王立化学会) (2024). Made-to-fade tattoos. https://www.chemistryworld.com/news/made-to-fade-tattoos/4016538.article

    [5] Ephemeral Tattoo(公式サイト). FAQ(よくある質問). https://ephemeral.tattoo/faq/

    [6] Chicago Sun-Times (2024). Temporary tattoos made to fade: ink for three years, not permanent. https://chicago.suntimes.com/inking-well-tattoos/2024/06/02/temporary-tattoos-made-to-fade-ink-for-three-years-not-permanent

    [7] Dazed Digital (2023). Made to fade: two years later, my Ephemeral tattoo isn't so temporary. https://www.dazeddigital.com/beauty/article/59660/1/made-to-fade-two-years-later-my-ephemeral-tattoo-isn-t-so-temporary

    [8] Highsnobiety (2023). Ephemeral Tattoo is closing most of its studios. https://www.highsnobiety.com/p/ephemeral-tattoo-closing/

    [9] CBC Radio (2023). Ephemeral tattoos criticism(As It Happens). https://www.cbc.ca/radio/asithappens/ephemeral-tattoos-criticism-1.6765812

    [10] Henry Ford Health(公式ニュースリリース) (2023). Henry Ford Health and Ephemeral Tattoo partner on radiation therapy marking research. https://www.henryford.com/news/2023/05/ephemeral

    [11] Freethink (2023). Ephemeral and radiation therapy: a temporary tattoo solution. https://www.freethink.com/health/ephemeral-radiation-therapy

    [12] Ephemeral Tattoo(公式サイト・日本語版). Ephemeral Tattoo 日本公式ページ. https://ephemeral.tattoo/jp/

    [13] Ephemeral Tattoo(公式サイト・日本語版). 東京のEphemeralアーティスト一覧. https://ephemeral.tattoo/jp/artists/tokyo/

    [15] tattoo-japan.com. Ephemeral 取扱スタジオ一覧. https://tattoo-japan.com/ephemeral/studios

    [16] European Chemicals Agency(ECHA). REACH restriction of hazardous substances in tattoo inks and permanent make-up. https://echa.europa.eu/-/reach-restriction-of-hazardous-substances-in-tattoo-inks-and-permanent-make-up

    [17] European Chemicals Agency(ECHA). Tattoo inks and permanent make-up(Hot topics). https://echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks

    [18] U.S. Food and Drug Administration(FDA). Think Before You Ink: Tattoo Safety. https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/think-you-ink-tattoo-safety

    [19] U.S. Food and Drug Administration(FDA) (2025). FDA advises consumers, tattoo artists, and retailers to avoid using or selling certain Sacred tattoo ink. https://www.fda.gov/safety/medical-product-safety-information/fda-advises-consumers-tattoo-artists-and-retailers-avoid-using-or-selling-certain-sacred-tattoo-ink

    [20] Laux P. et al. (2024). Tattoo Pigment Biokinetics in vivo in a 28-Day Porcine Model: Elements Undergo Fast Distribution to Lymph Nodes and Reach Steady State after 7 Days. PubMed(査読付き学術論文). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38402858/

    [21] PubMed(査読付き学術論文) (2023). Axillary lymph node pigmentation in tattooed patients. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38076013/

    [22] PubMed(査読付き学術論文) (2017). The importance of tattoo pigment in sentinel lymph nodes. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28697552/

    [23] Journal of Radiation Research(PMC) (2022). A novel method for skin marking in radiotherapy: first clinical use of temporary organic tattoo seal. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8944313/

    [24] PubMed(査読付き学術論文) (2001). Skin markings in external radiotherapy by temporary tattooing with henna. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11316562/

    [25] 厚生労働省 (2022). タトゥー施術行為に使用されることが目的とされている機械器具について(薬生監麻発第428001号). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6733&dataType=1&pageNo=1

    [26] 厚生労働省 (2023). 医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて(医政医発第703005号). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7817&dataType=1

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

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