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    タトゥー店の痛みについて断定する広告はなぜ信用しにくいのか

    タトゥー店の広告で見かける痛みについて断定する言葉。痛みの感じ方には個人差があるため、誰にでも当てはまる形で言い切るのは難しいものです。この記事では、1,092人に聞いた調査の数字と景品表示法のルールをもとに、広告の言葉をうのみにせず、自分で確かめるための見方をやさしく説明します。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師株式会社デルマト 代表取締役
    目次

    痛みは「針が触れたかどうか」だけでは決まりません

    タトゥーの痛みを考えるとき、まず知っておきたいのは「痛み」という言葉の意味です。国際疼痛学会(IASP)は2020年、痛みを「実際の、または起こり得る組織損傷に関連する、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験」と定義する案を示しました[1]。ここで大切なのは、痛みが「感覚」だけでなく「情動」、つまり気持ちの動きも含む体験とされている点です。

    同じ論文の注記には、痛みは常に個人的な体験であり、生物学的、心理学的、社会的な要因の影響を受けると書かれています[1]。痛みには体の状態だけでなく、その日の気分や緊張、置かれた状況も関わるということです。同じ針の刺激を受けても、人によって痛みの大きさが変わるのはこのためです。

    たとえるなら、同じ音量の音楽でも、くつろいでいる時と疲れている時では聞こえ方が違うようなものです。体の同じ場所に同じ刺激を受けても、ある人には我慢できる程度で、別の人にはつらく感じられることがあります。痛みの感じ方には個人差があります。誰にでも当てはまる形で「痛みがない」と言い切ることは、こうした痛みの性質と合いません。この記事では、痛みの性質とお店の広告に関わるルールを、順を追って説明します。

    待合ベンチで手を組み緊張する男性と、隣で穏やかに微笑むもう一人

    1,092人に聞いた、タトゥー施術中の痛み

    タトゥーの痛みについては、ポーランドで行われた調査があります。2019年6月から2020年6月にかけて、タトゥースタジオとオンラインで参加者を募り、1,092人(女性863人、男性229人)が回答しました[2]。ある時点の状態をまとめて調べる「横断研究」と呼ばれる方法です[2]。回答者の約8割が女性だった点も、結果を見るときに覚えておきたい特徴です。

    調査では、施術中と施術直後の最も強い痛みを、0から10までの11段階で答えてもらいました。0は「痛みなし」、10は「これまで経験した最も強い痛み」を指します[2]。このように痛みを数字で答えてもらう尺度を、NRS(数値評価スケール)と呼びます。体温計のように痛みを直接測る機械はないため、本人の答えを数字にして比べます。たとえば「5」と答えた人より「8」と答えた人のほうが、強い痛みを感じたことになります。ただし、ある人の「5」と別の人の「5」が同じ痛みとは限りません。

    分析の結果、施術中の痛みは、施術時間(B=0.35、95%信頼区間0.27〜0.43、p=0.001)と施術前のストレスの程度(B=0.45、95%信頼区間0.31〜0.60、p=0.001)に関連していました[2]。Bは関連の強さを表す値です。どちらも正の値なので、施術時間が長いほど、また施術前のストレスが強いほど、痛みを強く感じる傾向がありました。なお著者らは、オンライン回答の時点を正確に把握できないことなどを研究の限界として記しています[2]。

    痛みについて断定する広告が信用しにくい理由

    ここまでの話をまとめると、タトゥーの痛みは針の刺激だけで決まるものではありません。IASPの定義が示すように、痛みは心や環境の影響も受ける個人的な体験です[1]。調査でも、施術時間や施術前のストレスといった要素が痛みと結び付いていました[2]。同じお店で同じ道具を使っても、受ける人や条件が変われば、感じる痛みも変わり得ます。痛みは、お店の努力だけで一律に決められるものではないのです。

    そう考えると、痛みについて断定する言葉には無理があります。デザインの大きさで施術時間は変わりますし、当日の緊張の度合いも人それぞれです。初めてのタトゥーで緊張している人と何度も経験している人とでは、同じ施術でも受け止め方が違って当然です。条件が一人ひとり違う以上、全員に同じ結果を約束する言葉は、根拠を示すのがとても難しくなります。

    口コミや体験談は、書いた人自身の経験であり、次に施術を受ける人にも同じことが起きる保証にはなりません。書いた人の条件が自分に近いかどうかを意識して読む必要があります。

    中央に「タトゥー施術中の痛み」と書いた円を置き、そこへ向かう矢印で3つの要因を示す図。左に「生物学的な要因(体の状態など)」、右に「心理学的な要因(施術前のスト

    タトゥー店の広告にも景品表示法のルールがあります

    お店の広告の言葉には、法律のルールがあります。中心になるのが、1962年に制定された「不当景品類及び不当表示防止法」、略して景品表示法です[3]。名前は少し堅苦しいですが、広告や表示で消費者に誤解を与えることを防ぐ法律の一つです。この法律の第5条は、事業者が自分で提供する商品やサービスについて、内容を実際より著しく良いものと消費者に示す表示などを禁止しています[3]。ここでは「実際より良く見せる表示」に絞って見ていきます。

    対象は形のある商品だけではありません。法律の言葉では「役務」、つまりサービスも含まれます[3]。タトゥーの施術も、お店がお客さんに提供するサービスの一つです。痛みに関する言葉も施術の中身にかかわる表示なので、このルールと無関係ではありません。お店の側から見れば、広告で何を約束するかは、そのままお客さんへの約束になるということです。

    では、どこに書かれた言葉が「表示」になるのでしょうか。消費者庁の運用指針は、商品そのものや店頭の表示、チラシ、新聞・雑誌広告、テレビ広告に加えて、インターネット広告も表示に含まれると示しています[5]。この指針は2003年10月28日に公正取引委員会が策定し、2016年4月1日に消費者庁が一部を改正したものです[5]。お店のウェブサイトやネット広告の言葉も、ルールの外にあるわけではありません。

    「景品表示法でいう『表示』に含まれるもの」を示す図。中央に「表示」と書いた大きな枠を置き、その中に6つの小さなアイコン付きカードを並べる:「商品本体」「店頭表示

    効果をうたうなら、裏付けとなる資料が必要です

    消費者庁は、商品やサービスの効果や性能を表示する場合、合理的な根拠を示す資料が必要だと説明しています[4]。根拠として求められるのは、客観的に実証された試験・調査の結果や、専門家・専門機関の見解、学術文献などです[4]。しかも、広告でうたった効果と資料の中身がきちんと対応していなければなりません[4]。効果をうたうなら、その言葉に見合う証拠を手元にそろえておく必要があるということです。

    消費者庁から根拠の資料を求められた場合、原則として文書で求められた日から15日以内に提出する必要があります[4]。期限までに出せなかったり、出した資料が根拠と認められなかったりすると、措置命令との関係では不当表示とみなされます[4]。どの資料なら合理的な根拠に当たるかは、事案ごとに個別に判断されます[5]。広告を出した後で根拠を探すのでは間に合わない、ということでもあります。

    これを痛みについての断定的な言葉に当てはめると、ハードルの高さがわかります。広告が「誰にとっても痛みがない」と受け取られるなら、資料もそれに見合う中身が必要です。しかし前の章で見たとおり、痛みは一人ひとり違う個人的な体験です[1]。言葉が強いほど、それを支える根拠を用意するのは難しくなります。強い言葉を一つ置くより、事実に沿った説明を重ねるほうが、読む人にとっても誠実です。

    根拠資料の提出の流れを示す横長のフロー図。左から「広告で効果・性能を表示」→「消費者庁が文書で資料提出を要求」→「原則15日以内に提出」と矢印でつなぐ。最後の箱

    小さな注意書きを添えれば済むわけではありません

    広告の片隅に「痛みの感じ方には個人差があります」と小さく書いてあるのを見たことがあるかもしれません。こうした注意書きを、消費者庁は「打消し表示」と呼んでいます[6]。目立つ宣伝文句のほうは「強調表示」です。大きな文字の宣伝文句と隅の小さな注意書きでは、目に入りやすさがまったく違います。では、注意書きさえあれば、大きな宣伝文句はどんな内容でもよいのでしょうか。答えは「いいえ」です。

    消費者庁の報告書は、強調表示は無条件で当てはまると消費者に受け止められ得ると説明しています[6]。そのため、例外や制約があるのに、わかりやすく適切な打消し表示がなければ、景品表示法上問題となるおそれがあるとしています[6]。さらに、強調表示と打消し表示が矛盾する場合も、消費者に誤認されるおそれがあると示しています[6]。痛みについて断定する言葉を大きく書いて「個人差があります」と小さく添える組み合わせは、二つの言葉の中身がぶつかり合っている例です。

    また、表示が問題になるかどうかは、一つの言葉や写真だけで決まるのではありません。消費者庁は、表示の内容全体から消費者が受ける印象を基準に判断すると説明しています[7]。実際のサービスと広告の印象に差があり、その差を知っていれば消費者が通常は引き付けられない程度の誇張かどうかが、判断の要素になります[7]。広告全体から「この店なら痛みはない」と受け取れるなら、小さな注意書きがあっても、その印象は消えにくいものです。

    痛みに関する広告を見たときに確かめたいこと

    広告の言葉をそのまま信じず、自分の状況に置き換えて考えてみましょう。痛みに関わる要素として、施術時間と施術前のストレスがあることは調査でも示されています[2]。希望するデザインの大きさや細かさで、どのくらい時間がかかりそうかを事前に聞いておくと、当日のイメージがつかみやすくなります。数回に分けて施術するのか、1回で終えるのかも確かめておきたい点です。

    調査では、施術前のストレスが強いほど痛みを強く感じる傾向がありました[2]。不安を一人で抱え込まず、気になることはカウンセリングや予約の段階で遠慮なく質問してください。痛みの感じ方には個人差があるので、「自分の場合はどうなりそうか」を率直に相談できる相手かどうかも、お店選びの目安になります。質問にていねいに答えてくれるかどうかで、お店の姿勢も見えてきます。

    広告の表示で困ったときや、受けたサービスが説明と大きく違うと感じたときは、消費者ホットライン「188」に電話する方法があります[8]。全国共通の番号で、地方公共団体が設置する身近な消費生活センターや消費生活相談窓口につながります[8]。痛みが心配な方は、予約時にご相談ください。施術の流れや所要時間の目安を先に聞いておくと、当日に向けて心の準備がしやすくなります。

    自然光の施術室で、腕に刺青のある彫り師が木のテーブル越しに女性客へ身ぶりを交え説明する様子

    よくある質問

    タトゥーの痛みは、誰にでも同じように保証できますか?

    痛みの感じ方には個人差があります。国際疼痛学会は、痛みを生物学的・心理学的・社会的な要因の影響を受ける個人的な体験としています。そのため、誰にでも当てはまる形で「痛みがない」と言い切ることはできません。痛みが心配な方は、予約時にご相談ください。

    タトゥー店の広告にはどんな法律が関わりますか?

    中心になるのは景品表示法です。第5条は、事業者が提供する商品やサービスの内容を、実際より著しく良いものと消費者に示す表示などを禁止しています。消費者庁の運用指針では、インターネット広告も表示に含まれると示されています。

    「個人差があります」と小さく書いてあれば問題はないのですか?

    そうとは言えません。消費者庁は、強調表示と打消し表示が矛盾する場合、消費者に誤認されるおそれがあると示しています。表示が問題になるかは、広告全体から消費者が受ける印象を基準に判断されます。

    広告と実際のサービスが違うと感じたら、どこに相談すればよいですか?

    消費者ホットライン「188」に電話する方法があります。全国共通の番号で、地方公共団体が設置する身近な消費生活センターや消費生活相談窓口につながります。


    参考文献

    • [1]. Srinivasa N. Raja, David B. Carr, Milton Cohen, Nadine B. Finnerup, Herta Flor, Stephen Gibson, ほか. The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises. (PAIN, 2020). doi:10.1097/j.pain.0000000000001939. リンク

    • [2]. Joanna Witkoś, Magdalena Hartman-Petrycka. Gender Differences in Subjective Pain Perception during and after Tattooing. (International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020). doi:10.3390/ijerph17249466. リンク

    • [3]. 日本国. 不当景品類及び不当表示防止法. (e-Gov法令検索, 1962). リンク

    • [4]. 消費者庁. 表示に関するQ&A. (消費者庁, 不明). リンク

    • [5]. 公正取引委員会(2003年10月28日策定、消費者庁が2016年4月1日に一部改正). 不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針. (消費者庁, 2016). リンク

    • [6]. 消費者庁. 打消し表示に関する実態調査報告書(概要). (消費者庁, 2017). リンク

    • [7]. 消費者庁. 景品表示法の基本的な考え方に関するQ&A. (消費者庁, 2014). リンク

    • [8]. 消費者庁. 消費者ホットライン. (消費者庁, 不明). リンク

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部を卒業後、A.T.カーニーで戦略コンサルタントとして、国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多くの業界のプロジェクトに携わりました。2024年に、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立しました。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔クリームの扱いや衛生管理など、医学の知識にもとづいた安心・安全な施術環境を整えています。日本で、タトゥーに医学・科学の立場から取り組む第一人者です。

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