コラム一覧へ戻る
    ガイド更新 読了 約14分

    タトゥーを入れられない場所はどこ?部位ごとに確認したいリスク

    タトゥーの部位選びでは、皮膚の構造や状態に加え、施術者の経験と受付方針を確認する必要があります。手のひらや指、口の中、眼球では、注意する理由も根拠の種類も異なります。医学的なリスクと施術者ごとの判断を分けて、部位ごとに見ていきます。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師株式会社デルマト 代表取締役
    目次

    タトゥーが「入る場所」は皮膚の中のどこか

    タトゥーは、外から入れた色素を皮膚の真皮という層に届けて、図柄を作る施術です[6]。皮膚は大きく分けて、表面の「表皮」と、その下の「真皮」の二層でできています。実際に光干渉断層計という装置で黒いタトゥー5件(女性3人)を観察した研究では、色素の集まりが真皮の浅い部分、真皮乳頭層に確認されました[1]。つまりタトゥーの色は、皮膚の表面ではなく、その下の層に留まっています。

    では、針が越えるべき表皮はどれくらいの薄さでしょうか。健康な皮膚の組織データ56報をまとめたメタ解析では、全身を合わせた表皮の厚さの推定値は99.75マイクロメートルでした。95%信頼区間は83.25〜116.25マイクロメートルです[2]。およそ0.1ミリの薄さです。タトゥーは、この薄い表皮を通過して、真皮の適切な深さに色素を置きます。皮膚の構造が異なる部位では、その違いを考慮する必要があります。

    一般的に入れられるのは「健康な皮膚」がある場所

    腕、脚、背中、胸、肩など、体の大部分を覆う通常の皮膚は、一般的にタトゥーを入れられる場所です。ただし、その場所の皮膚が健康であることが条件です。米国ニューメキシコ州のボディアート施術基準は、施術を受ける皮膚の表面について定めています。発疹や目に見える感染がない状態でなければならないとされています[7]。部位そのものより、まず皮膚の状態が問われるのです。

    この条件が最初に来るのには理由があります。タトゥーの合併症として最もよくみられるのは、施術部位の急性の局所炎症です[6]。もともと荒れている皮膚や感染のある皮膚に針を入れると、さらにトラブルを起こすことになります。逆に言えば、健康な皮膚であれば、体のかなり広い範囲が候補になります。施術できるかどうかは、部位の名前だけでなく、施術時の皮膚の状態も確認して判断します。

    手のひら・足裏・指が「難しい場所」と言われる理由

    手のひらと足の裏は、皮膚の作りからして特別な場所です。先ほどのメタ解析では、手のひら・足の裏の群で、表皮の厚さとエクリン汗腺の密度がもっとも高いと報告されています[2]。ただしこの研究は皮膚の構造を調べたもので、これらの特徴がタトゥーの色の定着に直接影響するかどうかまでは示していません。これらの部位は表皮が厚く、汗をかきやすいうえ、日常的にこすれる場所でもあります。

    施術者の側でも、この部位は慎重に扱われています。あるタトゥー教育系メディアの記事では、依頼を断る理由の一つとして手が挙げられています。手、とくに手のひらや指は治癒が難しく、インクが抜けやすいという施術者の経験則が紹介されています[9]。これは比較試験などで確かめられた医学的な事実ではなく、一つの業界メディアが紹介する現場の経験則です。手のひらや指を希望する場合は、その部位の施術経験がある施術者を選び、事前のカウンセリングでよく相談してください。

    口の中や唇まわり、粘膜は皮膚と同じ条件ではない

    唇の内側や口の中への装飾タトゥーを見かけることがありますが、粘膜は皮膚と同じ条件ではありません。粘膜が皮膚より薄いとは、一概には言えません。口腔粘膜の研究によれば、硬口蓋や歯肉は表皮のように角化していますが、頬の内側、口の底、舌の下面は非角化で、角質層が作られません[3]。外からの物質を通しにくくするバリアの性質も、口の中の場所ごとに異なります[3]。つまり、同じ「口の中」でも場所によって性質がまったく違うのです。

    唇まわりの化粧タトゥー(リップタトゥー)では、苔癬様皮膚炎という炎症性の反応が報告されています[4]。また、アイラインのタトゥーは眼に近く、まぶたの縁にあるマイボーム腺を傷つけるリスクが指摘されています[4]。これらは部位や手技に伴う合併症の報告であり、唇や粘膜のすべての施術を一律に禁止する根拠ではありません。口腔内の装飾タトゥーと、医療機関で行うリップやアイラインのアートメイクは、施術内容を分けて相談する必要があります。希望する部位と手技を具体的に伝え、適応やリスクを医療機関に確認してください。

    眼球へのタトゥーには、ほかの部位と異なる重いリスクがある

    白目に色素を入れる「強膜タトゥー」という施術が海外で報告されていますが、これには体のほかの部位とは異なる、重いリスクがあります。強膜タトゥー2例の症例報告と、過去の報告をまとめた論文があります[5]。著者らが確認した既報14例のうち10例で、針が眼球を突き抜ける意図しない眼球穿刺が起きていました。眼の中にインクが入った例では、重い視機能の障害がみられたと記載されています[5]。 ただし、この14例は論文に報告された症例であり、施術を受けた全員を分母にした合併症率ではありません。

    報告されている合併症も深刻です。表面の刺激や結膜のむくみにとどまらず、ぶどう膜炎、緑内障、眼内炎、網膜剥離、そして眼球そのものを失った例までまとめられています[5]。化粧タトゥーの合併症を扱った総説では、医師による医療目的の角膜・結膜下・上強膜タトゥーと、装飾目的の施術とは区別されています[4]。眼球は皮膚のように「真皮に色素を置く」ことができる構造ではありません。こうした重い合併症が報告されているため、装飾目的の眼球タトゥーを一般的な皮膚のタトゥーと同じように考えないでください。安全性が確立された施術とはいえません。

    ほくろの上と、皮膚疾患のある場所

    見落とされがちなのが、ほくろや皮膚疾患のある場所です。タトゥー施術のような真皮への刺激は、活動性の皮膚疾患を誘発したり悪化させたりする場合があると報告されています[8]。乾癬では、傷ついた場所に同じ病変が新しく現れるケブネル現象が知られています[6]。壊疽性膿皮症の悪化も、外傷がきっかけで炎症が起こるパテルギーという反応が関わっていると考えられています[6]。実際、タトゥーの後に、もともとあった乾癬、アトピー性皮膚炎、壊疽性膿皮症が悪化した例が記載されています[6]。症状が出ている部位への施術は避け、まず皮膚の治療を優先してください。

    ほくろの上については、色素で覆うと変化に気づきにくくなる心配があります[10]。気になる変化があるほくろは、施術前に皮膚科で相談しておくと安心です。診断がついていない病変を色素で隠すことは避けたほうが良いでしょう。施術予定の範囲にほくろがある場合は、予約時に位置を伝え、デザインで避けられるか、事前に皮膚科で確認したほうがよいかを相談してください。

    彫り師が断る場所に共通していること

    医学的な理由とは別に、施術者の判断で断られる場所もあります。あるタトゥー教育系メディアの記事では、断る理由の例が紹介されています。手のひらや指のように治癒が難しい部位であること、痛みが強くて施術を続けにくいこと、そして顔・首・指といった人目につく部位を慎重に扱う施術者がいることです[9]。断る背景には、「きれいに治せるか」を重視する施術者がいるようです。

    施術者ごとに、部位への対応は分かれることがあります。技術経験、デザインの内容、治癒後の管理のしやすさなど、断られた理由をまず確認してください。経験や受付方針によるものであれば、位置やデザインの変更を相談できます。一方、皮膚疾患や健康上の理由で見合わせを勧められた場合は、施術できる人を探す前に医療機関で確認してください。

    部位選びで最初に確認すること

    腕や脚など通常の皮膚も、発疹や感染がある状態なら施術を見合わせる必要があります[7]。手のひらや指は施術者の経験や方針が分かれる部位です[9]。口腔内や唇まわりは、皮膚と粘膜の違いに加え、装飾タトゥーかアートメイクかという手技の違いも確認します[3, 4]。眼球では眼球穿刺や視機能障害などの重い合併症が報告されており、皮膚と同じ施術として扱うことはできません[5]。これらを全国共通の可否や店舗の受付方針として、一つの色分けにまとめることはできません。

    部位を選ぶときは、まず希望する場所の皮膚がいま健康かどうかを確認し、自分の体の状態を施術者に伝えてください。米国ニューメキシコ州の施術基準では、事前に説明すべきリスク事項が定められています。糖尿病、出血性の疾患、色素へのアレルギー歴、抗凝固薬の使用などが挙げられます[7]。施術後に予期しない赤み、腫れ、発疹、浸出液、24時間以内の発熱があれば、医療従事者に相談するよう施術者から案内を受けることになっています[7]。この基準は米国のもので、日本の一律の規則ではありません。希望する部位、持病、服薬を施術先に伝え、必要に応じて主治医にも相談してください。

    よくある質問

    手のひらや足裏にタトゥーは入れられますか?

    医学的に一律禁止という根拠はありません。ただし手のひらと足底は表皮が最も厚く、汗腺の密度も高い部位です。施術者の間では治りにくい場所として知られており、断る施術者もいます。希望する場合は、その部位の経験がある施術者に事前に相談してください。

    眼球のタトゥー(強膜タトゥー)は安全ですか?

    安全性が確立された施術とはいえません。論文に報告された14例のうち10例で意図しない眼球穿刺があり、眼内にインクが入った例では重い視機能障害が報告されています。緑内障、網膜剥離、眼球喪失なども報告されています。ただし、この14例は症例報告の集計で、施術を受けた全員を分母にした発生率ではありません。医療目的で医師が行う処置と、装飾目的の眼球タトゥーは区別する必要があります。

    ほくろの上にタトゥーを入れてもいいですか?

    大きくなっている、色が変わった、出血やかゆみがあるなど、変化のあるほくろは、施術の前に皮膚科で確認することをお勧めします。色素で覆ってしまうと、その後の変化を観察しにくくなるためです。まずは予約時にほくろの位置を伝えてご相談ください。

    持病があるとタトゥーは入れられませんか?

    一律に不可というわけではありません。ただし糖尿病、出血しやすい体質、抗凝固薬の使用、色素へのアレルギー歴などはリスクに関わるため、米国の施術基準でも事前説明の対象とされています。予約時に必ず伝え、必要に応じて主治医にも相談してください。


    参考文献

    • [1]. Hanan Morsy, Mette Mogensen, Lars Thrane, Gregor B. E. Jemec. Imaging of intradermal tattoos by optical coherence tomography. (Skin Research and Technology, 2007). doi:10.1111/j.1600-0846.2007.00249.x. リンク

    • [2]. Haoming Xu, Maira Fonseca, Zachary Wolner, Esther Chung, Xinyuan Wu, Shamir Geller, Stephen W. Dusza, Antonio P. DeRosa, Ashfaq A. Marghoob, Klaus J. Busam, Allan C. Halpern, Michael A. Marchetti. Reference Values for Skin Microanatomy: A Systematic Review and Meta-Analysis of ex-vivo studies. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2017). doi:10.1016/j.jaad.2017.06.009. リンク

    • [3]. D. V. Dawson, D. R. Drake, J. R. Hill, K. A. Brogden, C. L. Fischer, P. W. Wertz. Organization, barrier function and antimicrobial lipids of the oral mucosa. (International Journal of Cosmetic Science, 2013). doi:10.1111/ics.12038. リンク

    • [4]. Jørgen Serup. Technical and Clinical Complications of Cosmetic Tattooing. (Current Problems in Dermatology, 2022). doi:10.1159/000526048. リンク

    • [5]. A. Rohl, K. L. Christopher, C. Ifantides. Two cases of pen ink scleral tattoos and a brief review of the literature. (American Journal of Ophthalmology Case Reports, 2021). doi:10.1016/j.ajoc.2021.101015. リンク

    • [6]. Parvez S. Islam, Christopher Chang, Carlo Selmi, Elena Generali, Arthur Huntley, Suzanne S. Teuber, M. Eric Gershwin. Medical Complications of Tattoos: A Comprehensive Review. (Clinical Reviews in Allergy & Immunology, 2016). doi:10.1007/s12016-016-8532-0. リンク

    • [7]. New Mexico Regulation and Licensing Department. 16.36.5 NMAC, Standards of Practice. (New Mexico Regulation and Licensing Department, Board of Body Art Practitioners, 2022). リンク

    • [8]. Carolyn I Jacob. Tattoo-associated dermatoses: a case report and review of the literature. (Dermatologic Surgery, 2002). doi:10.1046/j.1524-4725.2002.02066.x. リンク

    • [9]. Tattooing 101 editorial team. Can Tattoo Artists Refuse Service?. (Tattooing 101, 記載確認できず). リンク

    • [10]. Westley S. Mori, Kaitlin Vaughan Peters, Laura Korb Ferris, Timothy J. Patton. Tattoo Artists’ Approach to Melanocytic Nevi. (JAMA Dermatology, 2017). doi:10.1001/jamadermatol.2016.5243. リンク

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部を卒業後、A.T.カーニーで戦略コンサルタントとして、国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多くの業界のプロジェクトに携わりました。2024年に、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立しました。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔クリームの扱いや衛生管理など、医学の知識にもとづいた安心・安全な施術環境を整えています。日本で、タトゥーに医学・科学の立場から取り組む第一人者です。

    この記事をシェアX (Twitter)LINEFacebook