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    ガイド更新 読了 約15分

    タトゥー施術中にめまいや吐き気がしたら、まず伝えたいひと言

    タトゥーの施術中に、急にめまいがしたり、吐き気や冷や汗が出たりすることがあります。そんなときは我慢せず、すぐにアーティストへ伝えることが自分の安全につながります。この記事では、起こりやすい体のサインと、よく知られている仕組みを紹介します。声のかけ方や、伝えたあとに楽になりやすい姿勢もまとめました。

    須賀 公佑 医師Medically Supervised監修:須賀 公佑 医師株式会社デルマト 代表取締役
    目次

    施術中に出やすい体のサイン

    施術を受けている最中に、急に体がいつもと違うと感じることがあります。気を失う前ぶれとして知られているのは、めまい、汗が出る、体が熱く感じる、吐き気、目の前が見えにくくなるといった変化です[4]。顔色が青白くなることもあります[1]。顔色の変化は自分では気づきにくく、そばにいるアーティストのほうが先に気づく場合もあります。

    こうしたサインは、体が「少し休んでほしい」と出している合図のようなものです。痛みの感じ方や体調の変わり方には個人差があります。同じ部位で同じ時間の施術を受けても、最後まで平気な人もいれば、途中でつらくなる人もいます。「自分は大丈夫なはず」と決めつけず、いつもと違う感覚があれば、合図として受け取ることが大切です。

    痛みや緊張で起こる「血管迷走神経反射」

    施術中の気分不良について、医学的によく知られている仕組みのひとつに、血管迷走神経性失神があります。米国不整脈学会などの専門家合意文書では、30秒を超えて立ち続けたとき、感情的なストレス、痛み、医療的な場面に置かれたときに起こりやすい失神として説明されています[1]。心拍や血圧を自動で調整する神経の反応がかかわる失神で、反射性失神とも呼ばれます[2]。

    起こるときには、測れる場合には血圧が下がり、脈が相対的にゆっくりになります[1]。前ぶれとして汗、熱感、吐き気、顔面蒼白が出て、そのあとに疲れた感じが続くとされています[1]。欧州心臓病学会の失神ガイドラインも、痛み、器具を使う処置、血を見ることへの恐怖などが、この種類の失神のきっかけになりうるとしています[2]。タトゥーの施術は針を使い、一定の痛みを伴うため、こうしたきっかけと重なる部分があります。

    ただし、失神の原因はひとつではありません[2]。施術中に具合が悪くなっても、すべてがこの反射によるものとは限りません。だからこそ、自分で原因を決めて我慢するより、症状をそのまま伝えて施術を止めてもらうことを先にしてください。

    血管迷走神経性失神の流れを示す横向きのフロー図。左に「きっかけ」の枠(30秒を超える立位、感情的なストレス、痛み、医療的な場面、器具を使う処置、血への恐怖)[1

    声をかけるのは「前ぶれ」の段階で

    声をかけるのに早すぎるということはありません。めまいや吐き気を「もう少しで終わるから」と我慢するより、最初に違和感を覚えた時点で伝えるほうが安全です。前ぶれの段階なら、まだ自分の言葉で説明できます。姿勢を変える余裕もあります。少し様子を見てから伝えようとすると、そのあいだに症状が強くなることもあります。

    言い方は短くてかまいません。「すみません、少し気分が悪いです」「一度手を止めてもらえますか」のひと言で十分に伝わります。声を出しにくいときのために、手を軽く上げるなどの合図を施術前にアーティストと決めておくと安心です。施術中に体を急に動かすと線がずれやすいため、まず言葉や合図で伝え、針が離れてから動くようにしましょう。

    「迷惑をかけたくない」と遠慮する人もいます。けれど、途中で休憩を入れて体調を戻すほうが、落ち着いて施術を再開しやすくなります。アーティストにとっても、早めに知らせてもらえることは大きな助けです。体調の変化を伝えるのは、わがままではなく、安全に施術を進めるための大切な情報です。

    黒手袋の彫り師がマシンを離し、客が手のひらを上げて合図する施術中の手元

    伝えたあとに楽になりやすい姿勢

    気を失いそうなときの姿勢について、英国の国民保健サービス(NHS)は、横になって脚を高くするよう案内しています[4]。横になれない場合は、座ったまま頭を膝のあいだへ下げる方法を挙げています[4]。施術用の椅子やベッドの上にいるなら、アーティストと相談しながら姿勢を変えてもらいましょう。無理に自分だけで立ち上がろうとしないことが大切です。

    似た場面として、献血での案内も参考になります。日本赤十字社は、献血では緊張が強いときや当日の体調によって、気分不良やめまいが起こることがあるとしています[5]。その場合はすぐに座るか横になり、頭を低くして30分程度休むことで、通常は軽くなると案内しています[5]。献血とタトゥーは別の場面ですが、無理に起き上がらず、落ち着くまで休む時間をとるという点は参考にできます。

    回復したと感じても、しばらく疲れた感じが残ることがあります[1]。実際に意識を失った場合は、回復しても施術を再開せず、原因を確認するため医療機関に相談してください。NHSも、失神した場合は医師の診察を受けるよう案内しています[4]。意識は失わず、めまいなどが休憩で落ち着いた場合も、無理に続けず、その日の施術を終えるかを体調に合わせて相談しましょう。

    気を失いそうなときの姿勢を示す2コマのイラスト図。左のコマは「横になれるとき」:仰向けに横になり、クッションなどで脚を高くした人物のシルエット。右のコマは「横に

    すぐに助けを呼ぶべきサイン

    多くの気分不良は休むと落ち着きますが、急いで医療につなぐ必要がある状態もあります。NHSは、呼吸をしていない、1分以内に呼びかけても起きない、十分に回復しない、胸の痛みや動悸がある、けいれんがある、といった場合は緊急の医療要請が必要としています[4]。本人が話せない状態なら、まわりにいる人が迷わず助けを呼ぶことが大切です。

    心臓の病気が隠れていることもあります。日本赤十字社は、心臓発作の症状として、胸が締めつけられるような痛み、背中・肩・両腕・上腹部・喉などの痛み、顔面蒼白、冷や汗、倒れることを挙げています[6]。疑わしいときは直ちに119番通報し、反応がある人には楽な姿勢をとらせ、原則として飲食物を与えないよう案内しています[6]。冷や汗は前ぶれのサインと重なるため、胸の痛みなど、ほかの症状がないかにも気を配ってください。

    「すぐに助けを呼ぶサイン」のチェックリスト図。左の列にNHSが示す緊急のサイン(呼吸をしていない/1分以内に起きない/十分に回復しない/胸の痛みや動悸/けいれん

    我慢して続けると困ること

    気分が悪いのに施術を続けると、症状が進むサインを見逃しやすくなります。血管迷走神経性失神は、汗や吐き気などの前ぶれのあとに起こることがあります[1]。その段階で手を止めなければ、施術中に意識が遠のくおそれがあります。針が肌に触れている最中に体が急に崩れれば、本人にとってもアーティストにとっても危険です。

    もうひとつは、本当の原因が分かりにくくなることです。失神の原因はひとつではないため[2]、我慢しているうちに、別の病気のサインを見落とす心配もあります。「痛いから気分が悪いだけ」と自分で決めつけず、症状をそのまま伝えてください。そうすれば、少し休めばよいのか、助けを呼ぶべきなのかを、その場で判断しやすくなります。

    前ぶれに気づけることには意味がある

    前ぶれを自覚できることの大切さは、失神をくり返す人を対象にした臨床試験からもうかがえます。前ぶれに気づける再発性の血管迷走神経性失神がある223人を、2つのグループに分けて比べた多施設の無作為化試験です[3]。一方は通常の対応だけ、もう一方は通常の対応に「身体的カウンタープレッシャー法」の訓練を加えました[3]。この方法は、前ぶれを感じたときに体を使って失神を防ごうとするものです。

    通常の対応だけに117人、訓練を加える群に106人が割り付けられました。追跡できたのはそれぞれ110人と98人です[3]。平均14か月の追跡で、通常の対応群では110人中56人(50.9%)、訓練群では98人中31人(31.6%)が再発しました[3]。相対的なリスク減少は39%、95%信頼区間は11〜53%と報告され、訓練による有害事象の報告はありませんでした[3]。

    この試験の対象は、もともと失神をくり返す人で、タトゥーの施術中の様子を調べたものではありません[3]。それでも、前ぶれに気づき、その時点で行動することに意味があるという点は参考になります。施術中は体を動かすと線に影響するため、自己流で対処するより、まずアーティストに伝えて手を止めてもらいましょう。失神をくり返した経験がある人は、施術の前に医療機関で相談しておくと安心です。

    施術のあとに出る体の反応も知っておく

    体の変化は、施術中だけでなく施術のあとにも起こります。スウェーデンの調査では、タトゥーのある2,633人に、施術後1か月以内と1か月以降に出た副作用を自分で答えてもらいました[7]。1か月以内に何らかの副作用を1つ以上あげた人は40%でした[7]。1か月以降の副作用をあげた人は10%でした[7]。

    1か月以内の項目には、かゆみ、赤み、腫れ、傷やかさぶた、水ぶくれ、発熱や寒気、痛みなどが含まれています[7]。この調査で数えているのは施術後の反応で、施術中のめまいや吐き気は対象外です[7]。それでも、施術のあとに体が反応すること自体は珍しくないと知っておけば、変化に気づいたときに落ち着いて相談できます。

    体の反応の出方や痛みの感じ方には個人差があります。気になる変化はアーティストに伝えてください。熱が続く、腫れや痛みが強くなるなど、症状が重いと感じるときは医療機関を受診しましょう。

    予約から当日までにできること

    血を見るのが苦手な人や、採血や献血で気分が悪くなった経験がある人は、予約時や施術の前にアーティストへ伝えておきましょう。血を見ることへの恐怖や、器具を使う処置は、血管迷走神経性失神のきっかけになりうるとされています[2]。前もって知っていれば、声のかけ方や休憩の入れ方を一緒に決めやすくなります。

    当日の体調も大切です。献血では、当日の体調によって気分不良が起こることがあると案内されています[5]。体調がすぐれない日は無理に受けず、予約の変更を相談してください。また、30秒を超えて立ち続けることも失神のきっかけのひとつとされています[1]。待ち時間は座って過ごすと安心です。

    施術中に少しでもおかしいと感じたら、「少し気分が悪いです」と伝えることが自分を守る第一歩です。痛みや体調の変化の感じ方は人それぞれなので、遠慮はいりません。体調面で不安なことがあれば、予約時にご相談ください。

    よくある質問

    タトゥーの施術中にめまいがしたら、どうすればよいですか?

    まず「少し気分が悪いです」とアーティストに伝え、手を止めてもらいましょう。英国の国民保健サービス(NHS)は、気を失いそうなときは横になって脚を高くすること、横になれなければ座って頭を膝のあいだへ下げることを案内しています。落ち着いても、すぐには立ち上がらないようにしてください。 実際に意識を失った場合は、回復しても施術を再開せず、原因を確認するため医療機関に相談してください。

    施術中に気分が悪いと伝えるのは、迷惑になりませんか?

    迷惑ではありません。前ぶれの段階で伝えてもらえれば、休憩を入れたり姿勢を変えたりしやすくなります。我慢して続けるより、早めに知らせるほうが本人にとってもアーティストにとっても安全です。

    どんな症状のときに救急車を呼ぶべきですか?

    NHSは、呼吸をしていない、1分以内に起きない、十分に回復しない、胸の痛みや動悸がある、けいれんがある場合は緊急の医療要請が必要としています。日本赤十字社は、胸が締めつけられるような痛みや冷や汗など心臓発作が疑われるときは、直ちに119番通報するよう案内しています。

    痛みに弱い人は、施術中に気分が悪くなりやすいのですか?

    痛みや緊張は、血管迷走神経性失神のきっかけになりうるとされています。ただし、痛みの感じ方や体調の変わり方には個人差があります。不安がある人は、施術の前にアーティストへ伝えておくと、休憩の入れ方などを相談しやすくなります。

    採血で気分が悪くなったことがあります。タトゥーを受けても大丈夫ですか?

    血を見ることへの恐怖や、器具を使う処置は失神のきっかけになりうるとされています。採血や献血で気分が悪くなった経験は、予約時や施術前にアーティストへ伝えてください。失神をくり返した経験がある人は、施術の前に医療機関で相談しておくと安心です。


    参考文献

    • [1]. Robert S. Sheldon, Blair P. Grubb 2nd, Brian Olshansky, Win-Kuang Shen, Hugh Calkins, Michele Brignole, Satish R. Raj, Andrew D. Krahn, Carlos A. Morillo, Julian M. Stewart, Richard Sutton, Paola Sandroni, Karen J. Friday, Denise Tessariol Hachul, Mitchell I. Cohen, Dennis H. Lau, Kenneth A. Mayuga, Jeffrey P. Moak, Roopinder K. Sandhu, Khalil Kanjwal. 2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal Syncope. (Heart Rhythm, 2015). doi:10.1016/j.hrthm.2015.03.029. リンク

    • [2]. Michele Brignole, Angel Moya, Frederik J. de Lange, Jean-Claude Deharo, Perry M. Elliott, Alessandra Fanciulli, Artur Fedorowski, Raffaello Furlan, Rose Anne Kenny, Alfonso Martín, Vincent Probst, Matthew J. Reed, Ciara P. Rice, Richard Sutton, Andrea Ungar, J. Gert van Dijk, ESC Scientific Document Group. 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. (European Heart Journal, 2018). doi:10.1093/eurheartj/ehy037. リンク

    • [3]. Nynke van Dijk, Fabio Quartieri, Jean-Jaques Blanc, Roberto Garcia-Civera, Michele Brignole, Angel Moya, Wouter Wieling, PC-Trial Investigators. Effectiveness of physical counterpressure maneuvers in preventing vasovagal syncope: the Physical Counterpressure Manoeuvres Trial (PC-Trial). (Journal of the American College of Cardiology, 2006). doi:10.1016/j.jacc.2006.06.059. リンク

    • [4]. NHS. Fainting. (NHS, 2026). リンク

    • [5]. 日本赤十字社. 具合が悪くなったら. (日本赤十字社). リンク

    • [6]. 日本赤十字社. 心臓発作. (日本赤十字社). リンク

    • [7]. Emelie Rietz Liljedahl, Thomas Rustemeyer, Anna Saxne Jöud, Christel Nielsen. Self-reported side effects of tattooing: a cross-sectional study in the Swedish TABOO cohort. (BMJ Public Health, 2026). doi:10.1136/bmjph-2026-005480. リンク

    Medical Supervisor

    須賀 公佑 医師

    須賀 公佑すが・こうすけ

    医師・認定産業医

    株式会社デルマト 代表取締役

    慶應義塾大学医学部を卒業後、A.T.カーニーで戦略コンサルタントとして、国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多くの業界のプロジェクトに携わりました。2024年に、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立しました。

    タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔クリームの扱いや衛生管理など、医学の知識にもとづいた安心・安全な施術環境を整えています。日本で、タトゥーに医学・科学の立場から取り組む第一人者です。

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