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はじめてタトゥーを入れるとき、気になることは山ほどあります。デザインや痛みはもちろん、感染やインクの安全性、日本での法律の扱いまで、知っておきたい話題は広い範囲にわたります。この記事では、医学・法律・現場の慣行を、やさしい言葉で順番にまとめました。
入れる前に確認したい3つのリスク
タトゥーで気をつけたい体への影響は、大きく3つに分けられます。1つ目は、針や器具、インクから入る細菌の感染です。2つ目は、インクの成分に体が反応してかゆみや腫れを起こすアレルギーです。3つ目は、針を介して血液からうつるウイルス感染で、B型肝炎やC型肝炎、HIVなどが含まれます[4][5]。系統的レビュー(過去の研究をまとめて分析した報告)では、原因菌として表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌(薬が効きにくいMRSAを含む)、緑膿菌、それに非結核性抗酸菌が繰り返し報告されています[1]。
インクそのものが汚れていた事例も知られています。2011年から2012年にかけて、アメリカでは汚染されたインクを使ったことで、非結核性抗酸菌の集団感染が複数の州で発生しました。米国疾病対策センター(CDC)も公式の報告書でこの集団発生を取り上げています[2]。最近のレビューでは、施術の直後だけでなく、数か月から数年たってから皮膚にしこりや色素の異常があらわれるなど、長い目で見た合併症が起こりうることも示されています[3][5]。
つまり、感染やアレルギーは「珍しい運の悪い事故」ではありません。衛生と材料の管理しだいで、確率を下げられる現実的なリスクです。最初の一歩として、入れる前にこの3つを頭に入れておくと、スタジオやインクを選ぶときの目線が変わります[4]。
安全なスタジオを見抜くチェックポイント
スタジオを見学したら、まず針の扱いを確認します。針は1人ごとに新しいものを使う「使い捨て」が前提です。滅菌済みのパックに入った状態で、自分の目の前で開封されることが大切です[6]。施術者がきちんと手を洗い、清潔な使い捨てグローブを着けているかも見てみましょう。マシンやコード類に「バリアフィルム」と呼ばれる使い捨ての保護シートが巻かれているかも、衛生レベルを判断する手がかりになります[6]。
インクの扱いもよく見てください。ボトルから直接針につけるのではなく、1人ごとに小分けのカップに移し、残りは使い回さずに捨てているかが安全の分かれ目です。針やインクの使い回しは、細菌感染や血液からのウイルス感染の原因として、系統的レビューでも指摘されています[1][6]。使い終わった針の処分の仕方にも目を向けましょう。「シャープスコンテナ」と呼ばれる、針専用の固い廃棄容器に捨てられているのが望ましい姿です。一般のごみ箱に針が混ざっているスタジオは、衛生管理の基本ができていない可能性があります。
質問したときに、こうした手順をきちんと説明してくれるかどうかも、信頼できる施術者を見極める目安になります[6]。
インクの安全性と各国の規制の今
インクへの規制は、ここ数年で大きく動いています。アメリカでは2022年に化粧品関連の新しい法律(MoCRA)が成立しました。この枠組みのもとで、米食品医薬品局(FDA)はタトゥーインクへの監督を強めています。FDAは消費者向けの案内「Think Before You Ink」を公表しています[7]。また、FDAは2023年にドラフトのガイダンスを示し、2024年10月には微生物汚染の防止に関する最終ガイダンスを公表しました[8]。その中心は、インクの準備・包装・保管における不衛生な状態と、微生物汚染のリスクを防ぐための推奨事項です[8]。
実際の警告も出ています。2025年5月、FDAは「Sacred Tattoo Ink」の一部の製品について、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含む細菌汚染を理由に、使用と販売を避けるよう消費者と業者に勧告しました[9]。市販されているインクであっても、必ずしも安全とは限らないことを示す出来事です。ヨーロッパでは、2022年1月に化学物質を規制するREACH規則の改正が施行されました。およそ4,000の物質に濃度の上限が設けられています。よく使われていた青色顔料のPigment Blue 15:3と緑色顔料のPigment Green 7は、2023年1月から制限の対象になりました[10]。
ただし、改正後の市場でも、禁止された顔料が検出されたインクが流通していたと報告されています。ブランド選びは慎重に行う必要があります[11]。
日本での法律の扱いとアートメイクとの違い
日本では長い間、彫師の施術が医師法に違反するかどうかが争われてきました。2020年9月の最高裁決定で、彫師による施術は医師法違反にはあたらないと判断されました。医療行為とは別の扱いをすることが確認されています。この判断を踏まえて、厚生労働省では「タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究」が進められ、衛生管理の指針づくりが検討されています[12][13]。
施術に使う道具についても整理が進みました。令和4年4月28日付の通知(薬生監麻発0428第1号)では、タトゥーに使う機械や器具の取扱いに関する考え方が示され、医療機器との線引きが整理されています[14]。スタジオ側がこうした通知を踏まえた運用をしているかは、安全意識をはかる1つの目安になります。一方で、まゆ毛やアイライン、くちびるなどに色素を入れる「アートメイク」は別の扱いです。
厚生労働省の通知上、こうしたアートメイクとして色素を入れる行為は、医師法17条の医行為にあたると整理されています。医師、または医師の指示を受けた看護師・准看護師が、医療機関で行う必要があります[15]。「タトゥーと似たもの」と受け取られがちですが、法律のうえでは区別されています。
部位ごとの痛みの目安
痛みの強さは、その部分に神経がどれだけ集まっているか、皮下脂肪の厚さ、骨との距離、皮膚の薄さなどで変わります。骨に近く皮膚が薄いところほど、針の振動が伝わりやすく、痛みを強く感じやすい傾向があります[16]。ただし、こうした部位ごとの目安は、医学的にきっちり決まったものではありません。施術者や利用者へのアンケート、経験則にもとづく「痛みチャート」が出回っており、どの部位がどれくらい痛いかは資料によって評価が違います[16]。
そのうえで、肋骨まわりや胸まわり、足首、すね、手や足など、皮膚が薄く骨に近いところは痛みが出やすいと語られることが多いです。逆に、筋肉や脂肪がクッションの役割を果たす部分は、比較的やわらぐと言われます[16]。また、痛みの感じ方は人によって差が大きく、体調や睡眠、空腹の有無でも変わります。チャートはあくまで目安として受け取り、最終的には施術者と相談しながら部位を決めるのがおすすめです。はじめての方は、痛みが出にくいとされる部位から試すという選び方もあります[16]。
費用とサイズ感の現実的な目安
日本のタトゥー料金には公的な統計がなく、スタジオごとに価格の決め方が違います。地域や施術者、サイズ、予約の取り方によっても大きく変わるため、はっきりした相場を示すのは難しいのが実情です。最低料金(ミニマム)を設けるスタジオや、時間あたりで計算するスタジオなど、料金の仕組みもさまざまです。見積もりを取るときは、1か所だけで決めず、複数のスタジオに相談すると安心です。デザイン料が別途かかるのか、修正の対応はどこまでか、しばらくしてから色を入れ直す「タッチアップ」の費用がどうなるかも、契約前に確認しておきましょう。
FDAは消費者向けの案内のなかで、インクの安全性や感染・アレルギーのリスク、除去の難しさを、入れる前によく考えるよう促しています[7]。費用の説明も含めて、施術者に十分な説明を求める姿勢が大切です。サイズは、紙に実寸大で印刷したものを体に当ててみると、イメージがつかみやすくなります。「思ったより大きかった」「思ったより細かい線がつぶれた」というすれ違いを防ぐためにも、料金だけでなく仕上がりの見え方まで含めて、事前のすり合わせを丁寧に行うのが安心です。
治癒の流れと毎日のアフターケア
タトゥーの治り方には、いくつかの段階があります。クリーブランド・クリニックによると、最初の数週間は、赤みやにじみ、かゆみ、皮むけ、かさぶたが起こりえます。表面の治癒はおおむね2か月ごろまでに進み、皮膚の奥が落ち着くまでには、さらに数か月かかることがあるとされています[17]。色や線がはっきりしてくるまでに時間がかかるのは、この治癒の流れがあるためです。毎日のケアはシンプルです。
同クリニックは、刺激の少ない無香料の石けんで、1日2回やさしく洗うことをすすめています。よく水気を拭き取ってから、保湿剤を薄く塗ります。厚塗りはむれの原因になるので避けましょう[17]。施術後しばらくは、直射日光に長くあたることと、湯船・プール・海など長時間の水没を避けるのが基本です。治っていく間は日光を避け、治ったあとは衣類や日焼け止めで紫外線対策をします。紫外線はインクの色あせの原因になるためです[17]。
きれいな状態を長く保つには、入れた直後だけでなく、その先のケアを習慣にすることが大切です。
後悔しないための事前の考え方
タトゥーを入れた人がどんなときに後悔しやすいかは、研究でも調べられています。サウジアラビアで行われた横断研究では、対象者の約58%が後悔を経験し、42.5%が除去を試みたと報告されています。除去の理由として多かったのは、文化的な理由、出来ばえへの不満、若いうちに入れたこと、色や形が時間とともに変わったこと、考え方の成熟、生活やパートナーの変化などでした[18]。米国の市場統計でも、タトゥーを入れた人の一定割合が後悔を経験しているという数字が出ています[19]。
対策はシンプルで、決めるまでの時間をしっかりとることです。デザインを思いついてから数週間から数か月の検討期間を置いてみましょう。その間に仮タトゥーや位置決めのシールを貼って、毎日の生活や服装に馴染むかを試すと、勢いで決めるリスクを減らせます。皮膚科の専門誌も、入れる前にデザインと部位を慎重に検討するよう促しています[20]。もし入れたあとに気持ちが変わっても、レーザーで薄くしたり除去を試みたりする方法はあります。ただし、完全に消えるとは限りません。瘢痕(はんこん)が残ったり、色素が残ったりすることがあり、複数回の施術が必要で、費用も痛みもそれなりに伴います[20]。
だからこそ、入れる前の時間をどれだけ大切に使えるかが、長くつき合える1枚に出会うための近道です。
まとめ
はじめてのタトゥーは、自分を表現する大切な選択です。感染やアレルギー、血液からの感染という3つのリスクを知り、衛生管理のしっかりしたスタジオを選ぶことが、安全への第一歩になります。インクの規制や日本の法律、痛みや費用、治癒とケアの流れまで、基本を押さえたうえで、決めるまでの時間を十分にとりましょう。納得して選んだ1枚なら、長く心地よくつき合っていけます。
参考文献
[1] The Risk of Bacterial Infection After Tattooing: A Systematic Review of the Literature (2016). PMC (PubMed Central). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5290255/
[2] CDC (2012). Tattoo-Associated Nontuberculous Mycobacterial Skin Infections — Multiple States, 2011–2012. CDC MMWR. https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6133a3.htm
[3] Causes, patterns, and epidemiology of tattoo-associated infections since 1820 (2024). The Lancet Microbe. https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(24)00274-X/fulltext
[4] Tattoos: risks and complications, clinical and histopathological approach (2024). PMC (PubMed Central). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11221160/
[5] Tattooing: immediate and long-term adverse reactions and complications (2025). PMC (PubMed Central). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11739707/
[6] Is Your Professional Tattoo Artist Protecting You Against Infections?. Infection Control Today. https://www.infectioncontroltoday.com/view/is-your-professional-tattoo-artist-protecting-you-against-infections-
[7] Think Before You Ink: Tattoo Safety (2023). U.S. Food and Drug Administration (FDA). https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/think-you-ink-tattoo-safety
[8] The Ink is Dry: FDA Issues Final Guidance for Tattoo Industry. Crowell & Moring LLP. https://www.crowell.com/en/insights/client-alerts/the-ink-is-dry-fda-issues-final-guidance-for-tattoo-industry
[9] FDA Advises Consumers, Tattoo Artists, and Retailers to Avoid Using or Selling Certain Sacred Tattoo Ink (2025). U.S. Food and Drug Administration (FDA). https://www.fda.gov/safety/medical-product-safety-information/fda-advises-consumers-tattoo-artists-and-retailers-avoid-using-or-selling-certain-sacred-tattoo-ink
[10] Tattoo inks and permanent make-up. European Chemicals Agency (ECHA). https://www.echa.europa.eu/hot-topics/tattoo-inks
[11] Banned pigments found in tattoo inks sold in the EU. Chemistry World. https://www.chemistryworld.com/news/banned-pigments-found-in-tattoo-inks-sold-in-the-eu/4020247.article
[12] タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究(プロジェクト概要). 厚生労働科学研究成果データベース. https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/161632
[13] タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究 分担研究報告書(令和4年度) (2022). 厚生労働科学研究成果データベース. https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202206020A-buntan1.pdf
[14] 薬生監麻発0428第1号 タトゥー施術機械器具の取扱いについて(令和4年4月28日) (2022). 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6733&dataType=1&pageNo=1
[15] アートメイクは「医療行為」 タトゥーとの違いは(弁護士ドットコムニュース). 弁護士ドットコムニュース. https://www.bengo4.com/c_8/n_16240/
[16] Tattoo Pain Chart. Removery. https://removery.com/blog/tattoo-pain-chart/
[17] Tattoo Aftercare: Instructions and Healing Tips. Cleveland Clinic. https://health.clevelandclinic.org/tattoo-aftercare
[18] Tattoo Regret, Complications, and Removal: A Cross-Sectional Study among Tattooed Individuals in Saudi Arabia (2024). PMC (PubMed Central). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11300047/
[19] Share of Americans who regret getting a tattoo. Statista. https://www.statista.com/statistics/447473/regretting-tattoos-in-the-us/
[20] Tattoos: Medical Risks of Body Ink. The Journal of Clinical and Aesthetic Dermatology (JCAD). https://jcadonline.com/tattoos-medical-risks-body-ink/
Medical Supervisor

須賀 公佑すが・こうすけ
医師・認定産業医
inklinic 代表 / 株式会社デルマト 代表取締役
慶應義塾大学医学部卒業後、A.T.カーニーにて戦略コンサルタントとして国内外の医療・エンタメ・エネルギーなど多業界にわたるプロジェクトに従事。2024年、日本初の医療連携タトゥースタジオ「inkly tattoo」を設立。
タトゥーが「自己表現の手段」として自由に選ばれる社会を目指し、麻酔による痛みの軽減や衛生管理など、医学的知見に基づいた安心・安全な施術環境を提供している。日本におけるタトゥーの医学的・科学的アプローチの第一人者。

